院生の3分の1が学んだ藤澤一就八段の囲碁教室

撮影:小松士郎
子どもの教育に囲碁がよいという認識が深まり、各地で盛んになってきている囲碁教室。先月の洪道場に続いて今月も、東京で人気の囲碁教室の模様をお届けする。
新宿の繁華街、大通りに面したビルの4階に、都心近郊から多くの子どもたちが通う囲碁教室がある。新宿こども囲碁教室だ。教室は2015年10 月末現在で、生徒200 人、院生は22人に達する。
教室を主宰する藤澤一就八段のお話とともに、教室と、その裏に隠された?秘密に迫る。

■院生の3分の1が教室出身

2015年度の冬季棋士採用試験本戦で入段を決めた広瀬優一君をはじめ、院生の3分の1以上を占める22人が育った場所が、新宿のビルの一室にある「新宿こども囲碁教室」だ。教室を主宰する藤澤一就八段は「15年前、15人の生徒でスタートしたこの教室ですが、最近は教育に囲碁がよいという認識が高まっているのか生徒は数年前から200人を超えています」と語る。

■ひたすら対局

教室では、時計を使って打つ院生を目指す子から、アシスタントの先生に9路盤で個人指導を受ける子まで、ワンフロアで約40名の子どもたちが黙々と碁を打つ。多い子で、2時間で6〜7局打つそうだ。
「囲碁は、一生懸命考えている状態が長いほど強くなります。それには、子どもたちには対局が一番。そのために、指導をするアシスタントが常時7、8名いるようにしています」と、藤澤八段。
昨年、入段して4年で本因坊リーグ入りを果たした本木克弥七段は、丸太ん棒を振り回すような碁を打っていたというが、それをやめろと言ったことはないという。
「自分なりに一生懸命考えて打つことの積み重ねが大事なのです」。
父であり師匠でもある藤澤秀行名誉棋聖からよく言われた「見たことのある形にとらわれず、自分がいちばんいいと思った手を打ちなさい」という言葉を大切にしているのだ。

■院生急増の理由

子どもたちの8割は、週に1回、2時間のコースに通っており、その子たちに対しては囲碁を楽しんでもらうことを方針としているそうだ。教室出身の寺山怜四段も、通い始めの5年生のときは15級だったという。
先輩の活躍を見て「自分も棋士になりたい!」という子も増えているそうだ。そういった子には早めに院生になることを勧め、週に3回以上通うようにさせている。
「院生として打ったほうが、より一生懸命打つので、強くなりますから」。

■秘密? の道場

教室からは6人の棋士が誕生している。強くなった秘密は、こども教室から徒歩で10分ほどの場所にある、藤澤名誉棋聖が名付け親の「天豊道場」にあった。開設当時は、藤澤名誉棋聖も月に一度は指導に訪れていたという。院生上位に達した子どもたちは、この道場で特別教育を受けているのだ。本木七段は、7年前から現在に至るまでこの道場に住み込みで勉強しているそうだ。
道場には、指導のため高尾紳路九段や結城聡九段、坂井秀至八段など、そうそうたる棋士たちが頻繁に訪れている。「世界で戦える強い棋士を育てることが目標ですので、誰でも受け入れているというわけではありません」。
弟子たちの活躍が何よりもうれしいという藤澤八段の「世界戦で頑張る棋士を育てたい」という夢は、遠いものではなさそうだ。
■『NHK囲碁講座』2016年2月号より

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