囲碁が強くなる子の特徴とは──囲碁道場主宰 洪清泉二段に聞く
- 撮影・小松士郎
子どもの教育に囲碁がよいという認識が深まり、各地で盛んになってきている囲碁教室。そこで今月と来月の2回にわたり、東京で人気の囲碁教室の模様をお届けする。
東京都杉並区の住宅街の一角に、多くの子どもたちでにぎわう二階建ての一軒家がある。洪道場だ。囲碁棋士を目指す子どもたちが全国から集まり、これまでの10年間で13人が目標を達成してきた。
2015 年8月に行われた少年少女囲碁大会の小学生の部でも、道場生が優勝、準優勝を占めるなど、ますます注目度が高くなっている。その洪道場の様子を、主宰する洪清泉二段の話とともにお伝えする。
* * *
■囲碁界の将来を担う子どもたち
2015年8月に開催された第の小学生の部で優勝した池田陽輝君と準優勝の福岡航太朗君、4位の田中佑樹君、女性で唯一5位に入賞した大須賀聖良さんなど、将来有望な子どもたちが日々その腕を磨いているのが、洪道場だ。
これまで輩出してきた棋士は13人。2014年度のNHK杯で準優勝し、国際戦でも大活躍の一力遼七段や十代で女流棋士のトップに上り詰めた藤沢里菜三段、入段早々16連勝するなど若手最有力株の芝野虎丸二段など、日本囲碁界の将来を担うことは間違いない大器ばかりだ。
約10年前に市ヶ谷のマンションでスタートし、3年前に移った杉並区内の一軒家には、現在約30人の子どもたちが通っている。中には、金曜日に片道2時間かけて道場に来て、日曜日の夜に帰っていくという子もいるという。
■飽きさせないことが大事
道場を主宰する洪清泉二段は、韓国でのアマチュア時代から子ども教室をやりたいという思いがあったという。そして「2002年の世界アマチュア囲碁選手権で、緑星囲碁学園を主宰されている菊池康郎先生とお会いしてお話を伺い、菊池先生のようになりたい」という思いが募り日本に渡ることを決意したそうだ。
道場の雰囲気は、決して重苦しいものではない。洪二段には、囲碁の勉強が苦痛だったために棋士への道から外れてしまったという、子どものころの実体験がある。そのため、公園に行ったりボウリングに行ったり、ボードゲームで遊ぶなど、囲碁だけの生活にならないように気を付けているそうだ。詰碁をやるにしても、チームを組んで競わせたり、賞品にお菓子を出すなど、常にメリハリをつけているという。「子どもたちに飽きさせないことがいちばん大切です」。
■自主性がある子は強くなる
強くなるために欠かせないのは本人の意志、親の支援、そして環境とのこと。「日常生活も大切です。掃除をきちんとしたり、お弁当を作ってくれる親に感謝するような子が強くなります」。
どのような子が強くなっているのかを伺うと、「自分からやる子」という答えが返ってきた。一力七段や藤沢三段は、先生の目の前の席をいつも争い、先生が席に着いた途端に「院生手合いの碁を検討してください」と迫ってきたという。そして強くなるために最も欠かせないのが、「囲碁がいちばん好き!」と言える情熱だそうだ。
■十代のうちは詰碁がいちばん
洪二段は道場の師範であるだけでなく、関西棋院の棋士でもある。水曜、木曜に手合いのある日は、火曜の夜8時に道場を出て新幹線に乗り12時に大阪に着く。そして木曜の夜中に東京に戻り金曜の朝から道場、という生活は「もう慣れました(笑)」。
「死ぬまでに、道場出身の棋士100人を達成したいです。個人的には、リーグ入りして自分の頑張る姿を道場生たちに見せたいですね」と今後の目標を語る洪二段。最後に、より具体的に強くなるための秘けつを聞いてみると、「十代のうちは、我慢する力を付けることが大事です。そのためにも、詰碁がいちばんよいと思います」と包み隠さず?教えてくれた。「二十代以上になると、対局したあとの検討ですね。人の話を聞いて消化することが大切です。四十代以上になったら、楽しむことがいちばんです」。
次回は、院生の師匠欄の3分の1を占める、藤澤一就八段が代表を務める新宿こども囲碁教室の様子をお伝えする。
■『NHK囲碁講座』2016年1月号より
東京都杉並区の住宅街の一角に、多くの子どもたちでにぎわう二階建ての一軒家がある。洪道場だ。囲碁棋士を目指す子どもたちが全国から集まり、これまでの10年間で13人が目標を達成してきた。
2015 年8月に行われた少年少女囲碁大会の小学生の部でも、道場生が優勝、準優勝を占めるなど、ますます注目度が高くなっている。その洪道場の様子を、主宰する洪清泉二段の話とともにお伝えする。
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■囲碁界の将来を担う子どもたち
2015年8月に開催された第の小学生の部で優勝した池田陽輝君と準優勝の福岡航太朗君、4位の田中佑樹君、女性で唯一5位に入賞した大須賀聖良さんなど、将来有望な子どもたちが日々その腕を磨いているのが、洪道場だ。
これまで輩出してきた棋士は13人。2014年度のNHK杯で準優勝し、国際戦でも大活躍の一力遼七段や十代で女流棋士のトップに上り詰めた藤沢里菜三段、入段早々16連勝するなど若手最有力株の芝野虎丸二段など、日本囲碁界の将来を担うことは間違いない大器ばかりだ。
約10年前に市ヶ谷のマンションでスタートし、3年前に移った杉並区内の一軒家には、現在約30人の子どもたちが通っている。中には、金曜日に片道2時間かけて道場に来て、日曜日の夜に帰っていくという子もいるという。
■飽きさせないことが大事
道場を主宰する洪清泉二段は、韓国でのアマチュア時代から子ども教室をやりたいという思いがあったという。そして「2002年の世界アマチュア囲碁選手権で、緑星囲碁学園を主宰されている菊池康郎先生とお会いしてお話を伺い、菊池先生のようになりたい」という思いが募り日本に渡ることを決意したそうだ。
道場の雰囲気は、決して重苦しいものではない。洪二段には、囲碁の勉強が苦痛だったために棋士への道から外れてしまったという、子どものころの実体験がある。そのため、公園に行ったりボウリングに行ったり、ボードゲームで遊ぶなど、囲碁だけの生活にならないように気を付けているそうだ。詰碁をやるにしても、チームを組んで競わせたり、賞品にお菓子を出すなど、常にメリハリをつけているという。「子どもたちに飽きさせないことがいちばん大切です」。
■自主性がある子は強くなる
強くなるために欠かせないのは本人の意志、親の支援、そして環境とのこと。「日常生活も大切です。掃除をきちんとしたり、お弁当を作ってくれる親に感謝するような子が強くなります」。
どのような子が強くなっているのかを伺うと、「自分からやる子」という答えが返ってきた。一力七段や藤沢三段は、先生の目の前の席をいつも争い、先生が席に着いた途端に「院生手合いの碁を検討してください」と迫ってきたという。そして強くなるために最も欠かせないのが、「囲碁がいちばん好き!」と言える情熱だそうだ。
■十代のうちは詰碁がいちばん
洪二段は道場の師範であるだけでなく、関西棋院の棋士でもある。水曜、木曜に手合いのある日は、火曜の夜8時に道場を出て新幹線に乗り12時に大阪に着く。そして木曜の夜中に東京に戻り金曜の朝から道場、という生活は「もう慣れました(笑)」。
「死ぬまでに、道場出身の棋士100人を達成したいです。個人的には、リーグ入りして自分の頑張る姿を道場生たちに見せたいですね」と今後の目標を語る洪二段。最後に、より具体的に強くなるための秘けつを聞いてみると、「十代のうちは、我慢する力を付けることが大事です。そのためにも、詰碁がいちばんよいと思います」と包み隠さず?教えてくれた。「二十代以上になると、対局したあとの検討ですね。人の話を聞いて消化することが大切です。四十代以上になったら、楽しむことがいちばんです」。
次回は、院生の師匠欄の3分の1を占める、藤澤一就八段が代表を務める新宿こども囲碁教室の様子をお伝えする。
■『NHK囲碁講座』2016年1月号より
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