「白い息」を詠んだ句から見えてくるもの

俳句は五・七・五のたった十七音で成立するものでありながら、その中からは様々なものが見えてきます。「NHK俳句」12月号では、「玉藻(たまも)」主宰の星野高士(ほしの・たかし)さんが、季題「息白し」を詠み込んだ句を紹介します。

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毎日の季節の変化は本当に僅かなものです。日々の生活で出会う季題は、我々に季節の流れを気づかせてくれます。例えば、朝、玄関を出た時に自分の息が白いと、冬も本格的になってきた、と思います。
息白き人重(かさな)つて来りけり

山口青邨(やまぐち・せいそん)


電車が到着した直後の駅前通りがこんな様子です。通勤電車からは一年中、人が重なって出て来ますが、白息(しらいき)が組み合わさると特に印象的です。駅前を黙々と歩く人間の群からは、都会の人間関係の寂しさを感じます。一方で、雑踏(ざっとう)には独特な暖かみもあり、それは「息白き」という季題からも感じられます。都会の暮らしの両面性を上手く切り取った句です。
息の白さ豊かさ子等に及ばざる

中村草田男(なかむら・くさたお)


稚児舞(ちごまい)の息白々と流れをり

清崎敏郎(きよさき・としお)


どちらも子どもの白息を詠んでいます。大人に比べれば体のパワーは劣(おと)りますが、子どもの小さな体に籠められた生気も並々ならぬものがあります。詠みぶりはまったく異なり、前者の句は草田男らしく、真っ直ぐに詠(うた)われています。何かお手伝いをしたか、ちょっと駆(か)けた後のような、弾んだ息が見えます。後者の句は敏郎らしい写生で穏やかな詠い方です。悠々とした子どもの息でしょう。異なる場面ではありますが、子どもの息の凝縮された白さが見えてきます。
■『NHK俳句』2015年12月号より

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