「根性の将棋指し」だった今泉健司四段はどう変わったか

撮影:小松士郎
プロ試験合格から1年、今泉健司(いまいずみ・けんじ)四段はプロとして将棋を指す中で何をどのように感じているのか。奨励会時代に「同じ釜の飯を食った」親友、観戦記者の上地隆蔵さんが2時間にわたってインタビューを行った。かつてを知る友だからこそ分かる、今泉四段の変わった部分、変わらない部分とは。

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■根性の将棋指し

今年4月、東京で開かれた今泉健司新四段の祝賀会で久々に会った。「あっどうも上地さん、ごぶさたしております。わざわざありがとうございます」と今泉さんは上半身を折って深く一礼した。彼とは関西奨励会で同じ釜の飯を食った25年以上つきあいのある戦友。丁寧な挨拶は他人行儀な気もしたが、今泉さんはあくまで腰が低かった。その後、会う人、会う人に笑顔でホスト役を務めていた。その会の祝辞で、筆者は「奨励会時代はコンセンと気安く呼んでいましたが、これからは今泉さんと呼ばせていただきます」と述べた。多少のジョークではあったが、そう思わせるぐらい人柄が変わった。
奨励会時代の今泉さんは、何というか「根性の将棋指し」だった。顔を真っ赤にして、手汗をグッショリかき、ゲンコツで思いっきり対局時計のボタンをたたき、盤上に駒を打ちつける。“とりもち”のような将棋で、闘志をむき出しにした。そして勝つと上機嫌になり、時折広島弁が飛び出す。いつも「味ええ〜」(味がいい・好都合という意味)と叫ぶのが口癖で、負けた者をイラつかせた。いつからか、彼はコンセン(苗字の音読み)と呼ばれるようになった。筆者とは気が合って、よく麻雀を打ち、よくスロットも打った。どこからそんなエネルギーが生まれてるのかというほど、毎日あきれるほど遊びまくっていた。
そんな今泉さんがプロ編入試験を3─1で合格し、晴れてプロ四段になったとき、筆者は心底うれしかった。関西の昭和62年入会組からようやくプロ棋士が誕生したのだ。やったな! ついに夢がかなったな、コンセン! あっ「今泉さん」でした。

■もっと勝てると思っていた

プロになって、まもなく1年がたとうとしている。今泉さんは「夢みたい。将棋を職業にできて本当に幸せです」としみじみ語る。奨励会時代、お茶を汲(く)む立場だったが、今はお茶を飲む立場になった。立派な盤駒で将棋を指し、傍らに記録係がつき、先生と呼ばれ、そのうえお金を頂戴できる。こんなにすばらしいことはない。しかしすべてがバラ色というわけではなく、早くも現実に直面している。
「プロとして対局してちょうど勝率5割。正直、もっと勝てると思っていた。上々じゃないかと言う人もいるけど、自分では全然物足りない。だってこのままじゃ、フリークラスを抜けられない」
プロは勝ってナンボの世界。負ければ生活に直結する。「プロとアマの一番の違いって、負けた痛み。その棋戦、1年間指せなくなるわけですからね。寂しいですよ。9月は忙しかったですけど、それは取材とか指導対局の仕事がたくさん入ったから。対局で忙しい日々を送りたい」と今泉さん。
※続きはテキストでお楽しみください。
■『NHK将棋講座』2015年12月号より

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