山下敬吾九段の「豪腕」と今村俊也九段の「世界一厚い碁」

左/今村俊也九段、右/山下敬吾九段 撮影:小松士郎
第63回NHK 杯2回戦・第8局は、今村俊也(いまむら・としや)九段(黒)と山下敬吾(やました・けいご)九段(白)が激突した。観戦記者の甘竹潤二さんの観戦記より、序盤の展開を紹介する。

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山下敬吾九段のアツい夏が終わった。井山裕太四冠に挑戦した碁聖戦五番勝負は1勝3敗で敗退。これで今年の両者の番碁対決は棋聖戦、本因坊戦に次いで3度、井山が制する結果となった。長岡市で行われた碁聖戦第3局の前夜祭。両対局者が退席したあと、司会者がファンに「どちらが勝つと思いますか?」と挙手を求めたところ、山下乗りが多数を占めた。単なる応援票ではあるまい。負けても負けても井山に挑戦する山下の姿に共感を覚えたファンが思わず「頑張れ」と声をかけたくなる。山下にはそんな魅力がある。
棋士としてはもちろん、関西棋院の常務理事としても、東奔西走の日々を送っている今村俊也九段は来年50歳を迎える。「藤沢秀行先生が『50歳になって強くなる』とおっしゃったように、僕も碁が強くなれたらと思っています」と、胸の内を語ってくれた。
さて豪腕山下と「世界一厚い碁」といわれる今村の一戦は、今村が珍しく地を先行する展開に。中盤、山下の豪腕がさく裂したが…。

■1譜 右辺を黒地にさせる

両者の対戦成績は山下敬吾九段9勝、今村俊也九段4勝。「山下さんは力が強い。こちらは厚く打っているつもりなのに、厚みを破壊されてしまう」と今村は言う。本局の解説を務める河野臨九段は、山下と2005年から3年連続の対決となった天元戦五番勝負(河野の3連覇)が印象深い。「山下さんとの対局はどの碁も激戦になって、すぐにツブされそうになる。とても神経を使う相手」だと言う。

黒7と通常のミニ中国流から一路右に寄せる布石でスタート。黒23と変化して、右辺で競り合いが始まった。「黒23は初めて打ちました。この手では黒24とハネる通常の定石のほうが僕の棋風でもあるのですが、今年はいろいろと試してみようと思って」と今村。
黒29、31と盛り上げたあと、黒35とコスんだのは右上隅も右辺も頑張った手。対して山下は白38、40とあっさり右辺を囲わせて、白42の打ち込みに回った。白38では1図、白1の肩ツキから7までと消す手も考えられるが、「黒は上辺の幅がいいので、不満のない形です」と河野九段。△(黒丸に白抜き)がaにある通常のミニ中国流と比べて、この一路の差は大違いなのだ。

黒45と急所に迫った手は、今村が「私の一手」に選んだ雰囲気の出た一着。白A、黒B、白C、黒Dと進めば理想形だが、ここで山下は仰天の反発を用意していた。
※投了までの記譜と観戦記はテキストに掲載しています。
■『NHK囲碁講座』2015年12月号より

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