佐藤天彦八段、物件選びの実戦へ

佐藤天彦八段が目下注力していること、それは物件選び。住まいやインテリアを念入りに調べているうちに、将棋の研究に通じる点があると気づいたそうです。

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最近、引っ越しを考えるようになりました。今の家には約8年住んでおり、気に入ってはいるのですが少し手狭になってきたからです。やはり洋服を買いすぎだからでしょうか(笑)。そういうわけで、広くて収納豊富なマンションを探しています。
まずはインターネットで下調べ。僕は凝り性なので、この段階で夢中になって探してしまいます。ほとんど知識のないところから、間取りの見方や、自分の好みはどんなところにあるのかなどを考えます。
そして物件探しに伴い、家具探しも熱を帯びてきました。
僕は西洋のバロックやロココ時代などのクラシックなインテリアが好きなのですが、今までは部屋が狭く、そういったコーディネートをすることは現実的ではありませんでした。
ですから、ネットで調べても「こういう部屋や家具はいいけど、どのみち今の自分の部屋だと無理だからなあ」という感じ(それでも熱い視線で見てはいましたが)でした。
しかし、今回もしもっと広い部屋に引っ越せば、憧れのインテリアを現実のものにできる可能性が出てきます。
こうなるともう止まりません。装飾的な彫刻が施されたダマスク柄のソファ。猫足の家具。天蓋付きのベッド…。物件探しと同様に、自分の好みが具体的にどんなところにあるのか、現実的にどのようなものを買えるのかということをひたすらネット上で探し回ります。
そうやって調べ物をしていて、いつも感じることがあります。調べ始めて最初のほうに引っかかった情報に「これはちょっと違うかなあ」と感じても、だんだん知識が増えてきてからあらためてその情報に接すると「あ、これって実はよかったんだ」と思うことがあるのです。
将棋の研究でも同じようなことがあります。棋譜を調べていて、ある新手が出てくるとします。最初は「これってどういう意味?」と理解できませんが、同じ戦型の棋譜をたくさん調べて理解度が深まってくると、その新手の意味が分かったりするのです。そんな瞬間は、今まで互いに関わりがなかったように思える点と点がつながって線になるようで、知ることや考えることの喜びをはっきりと感じられます。
自分の目の前に確かに見えているのにもかかわらずその実態は見えていないというのも面白いですし、そこから知識を増やしていくことによって理解が進み「こういうことだったんだ」と自然に分かる瞬間もすてきです。家具探しも物件探しも、そんな過程を経てだんだんと自分の中で候補が固まってきました。
とはいえ、これはあくまでも机上の研究。物件探しなどは特に、結局は部屋に入ったときの直感が大事とも聞きます。
そんな中、近づいてきた内覧日。これだけ準備をしていると、内覧するというだけで感慨深くなってしまいます(笑)。
自分の研究がどれくらい通用するのか。直感はひらめくのか。何が起こるかわからない、実戦の舞台がすぐそこです!
■『NHK将棋講座』2015年12月号より

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