佐藤天彦八段、初めての和服を誂える

第63期王座戦の挑戦者として、5番勝負を戦い抜いた佐藤天彦八段。大舞台に臨む前、初めての和服を誂えていました。

* * *

王座戦に出るにあたり、和服を用意することになりました。
実は、僕は和服を人生で一度も着たことがありませんでした。子供のころに着た記憶もなく、まったくの初心者です。
今回は、多くの棋士がお世話になっており、棋士間での評判もよい白瀧呉服店にお願いすることにしました。
お店に行く前。ここでまた僕の凝り性が発動です。実際に和服を着る機会ができて、がぜん興味が湧いてきました。早速、男性の着物の本を購入します。
もちろん、ちょっと読んだだけで和服のことを理解することにはなりません。でも、少しでもよさを分かって着たほうが楽しめますし、自然な雰囲気も出るのではないかと考えています。
そして、ついに白瀧さんのところに行く日が来ました。家族でお伺いしたので、場はにぎやか。用意していただいていた反物を見ながら、わいわいと皆で意見を言い合います。
白瀧さんと相談しながら、まずは裏地なしの夏用の和服を2セットと、裏地のある秋冬用の羽織を1枚お願いすることになりました。最初は、夏用の着物(長着)か羽織から決めようということに。選んだ反物は気に入りましたが、夏物というより、秋物の雰囲気がありました。
「これなら裏地をつけて、袷(あわせ/裏地あり)の着物にしたらいいんじゃない?」ということに。しっくり来る選択でしたが、来店から2時間ほどたっても羽織1枚しか決まっていないというスローペースが気になりました(笑)。
ただ、意外とそこからはスムーズに決まっていきました。分からないながらも、皆、感覚がつかめてきたのでしょうか。
「この反物はどう?」「似合ってるかもしれないけど、天彦のイメージじゃないかな」「こっちは?」「あ、このほうがいいね」。
慣れない着物選びではありましたが、家族で話し合いながらひとつひとつ選んでいくのは、とても楽しい時間でした。
選んだ和服は、もしかすると棋士が一般的に着る和服とはちょっと異なった色や組み合わせのものもあるかもしれません。
僕の王座挑戦が決まったあと、タイトル戦での服装に関しても話題になることがあると聞きました。今回、自分が好きで選んだ和服がファンの皆さまの間でよい意味で話題になるといいなと思っています。
後日。第1局の前に1回、着付けの練習に伺いました。
実際に着てみると、腰のあたりを帯で締める、今まで経験したことのない独特の感覚です。
苦しいわけではなく着心地はいいのですが、新しい感覚で驚きでもあったので、一度着ておいてよかったなと思いました。
着付けですが、その日のうちになんとか一とおりは覚えることができました。ただ、今回の王座戦は白瀧さんに着付けに来ていただく予定です。ちゃんと覚えているかどうか分からないですし、ど忘れしてしまうことも考えられますからね。
このような職業でなければ、和服を着ることはなかったかもしれません。でも、今はこの新鮮な機会を楽しみにしています。
■『NHK将棋講座』2015年11月号より

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