謝依旻女流名人と今村俊也九段の華いっぱいの控え室

左/今村俊也九段、右/謝 依旻女流名人 撮影:小松士郎
第63回NHK杯テレビ囲碁トーナメントの1回戦第18局は謝依旻(しぇい・いみん)女流名人と今村俊也(いまむら・としや)九段の対局だった。松浦孝仁さんの観戦記から、控え室の様子と序盤の展開を紹介する。

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対局前の控え室は華やかだった。司会の長島梢恵二段と読み上げの星合志保初段に、この日の対局者は謝依旻女流名人。これから勝負を争う競技が始まるとはとても思えない。
こんなとき、男は損だ、と少し思う。黙っていればそれこそ華がないと言われ、負ければ負けたでファンの目が厳しい。もっとも、今では男性棋士が女流棋士に負けてもニュースにはならないが。
NHK杯で初めて女流棋士が男性棋士を打ち破ったのは30年前、1985年のことだ。この大きなニュースの主人公は楠光子七段。当時は偉業と称えられたものだ。
主人公がいれば引き立て役が欠かせない。今村俊也九段は覚えていた。「僕が初めて負けた棋士です。昔から、なぜか女流の方とよく当たるんです」との告白に、華やかな控え室には笑いも加わった。ありがたくない役回りを彼は笑いに変えることができる。これはこれで華を感じさせる。NHK杯準優勝3回はダテじゃない。

■1譜 独創的

今村俊也九段は「世界一手厚い碁」との異名を持つ。ある棋士の言葉を借りれば、「亀よりも足が遅い」棋風だ。謝依旻女流名人は見かけと違って「パンチ力がすごい」と解説の村川大介王座。そうそう、収録中、うつむいている謝が映ると、「きれいな顔がもったいない」との声が上がったものだ。
今村の先番。白20までの進行は読者の皆さんも打たれた経験があるはず。目新しさは全くない。しかし、次の一手で盤上は未知の世界に。だから碁は面白い。

村川王座「黒21は1図の黒1から5までなら一般的。今村先生の碁は独創的で見たこともない形を選ぶケースがとても多いですね」

黒23も独創的と言えるだろうか。先に打った黒21が三線と位が低いため、黒23は「上(四線)」に構えたくなるものだ。黒25のカカリには白26とハサみたくなる。簡単に治まられては左下の厚みが泣く。
ここで2図の黒1と三々に入るプロはいないという。黒9までの定石は、上辺黒のバランスが気持ち悪くなるほど悪い。三線ばかりに黒石がずらっと並び、地としては小さく、発展性にも乏しい。△(黒丸に白抜き)はなくてもいいくらいだ。

黒は27のツケへ。左下白が厚いので、さらに固めても惜しくはない。白28の引きも当然の一手。黒に調子を与えてはいけない。
※投了までの棋譜と観戦記はテキストに掲載しています。
■『NHK囲碁講座』2015年10月号より

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