気づけば一晩10局も──戸辺誠六段がネット対局で白熱した相手とは

写真:河井邦彦
『NHK 将棋講座』で好評連載中の「あなたの知っている 知らない ○○」。9月号では戸辺誠(とべ・まこと)六段が登場です。2011年度後期の将棋講座「戸辺流振り飛車で目指せ初段!」を思い出す人も多いのではないでしょうか。「戸辺攻め」のルーツなど、あなたの知らない魅力に迫ります。

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■編集部から戸辺 誠六段への質問

Q 棋士には「勝負師、研究者、芸術家」という三つの側面があると言われますが、ご自身の中でこの3つのバランスは?
勝負師ではないですね。プロですから将棋に勝ち負けがついてまわるのはしかたないですが、白黒はっきりするものは実は苦手です。
研究者というのも違う気がします。自分の指す形は当然研究しますけど、それほどきっちり理論立ててやっているわけではないです。
芸術家でもないんですよ(笑)。ただ、コンピュータ将棋が強くなってきていることとも関係するのですが、将棋指しは「芸」でもあるのかな、というのは、最近感じます。歌舞伎だったら「市川海老蔵さんのニラミが見たい」というように、将棋も「この人の角換わりが見たい」とか「この人の振り飛車が見たい」というファンがつくようになるのかなと。自分もそういう棋士になりたいので、今は「振り飛車道」を極めたいと思っています。

■戸辺 誠六段、自らを語る

奨励会員時代は茨城県に住んでいました。将棋会館にはあまり気軽に行ける距離でもないので、一度東京に行ったら連盟に泊まり込んで2〜3局連続して記録係をやったりとか、工夫していましたね。記録係をたくさん務めたこともあり、有段者になると先輩棋士に名前を覚えてもらえて、「将棋指そうか?」と声をかけてもらう機会も増えたりとか。
当時はインターネット対局もけっこう指していましたよ。やたら強い相手がいて、毎回右玉で来るんです。僕はいつも中飛車なので、必ず中飛車対右玉になる。負けたほうがアツくなって「もう一局」という感じで、気づいたら一晩で10局指していたこともありました。
それが糸谷さん(哲郎竜王)だったんですね。のちに三段リーグで顔を合わせるようになったとき、お互いにニヤリとしたくらいで、「あのときはたくさん指したよね」とか話したことはありません。でも、そういうのは言葉にしなくても分かるんです。
■『NHK将棋講座』2015年9月号より

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