神谷明さん、「作品に操られる」ことの愉悦

「声優は生きがい、天職」と神谷明さん。撮影:藤田浩司
1970年代はロボットアニメ、1980年代はジャンプアニメと、数々の作品で主人公を演じてきた神谷明(かみや・あきら)さん。『シティーハンター』の主人公・冴羽獠を、自分の集大成的なキャラクターだと語る理由とは?

* * *

――神谷さんにとって、ターニングポイントになった作品を教えてください。
神谷 僕自身の転換点は、やっぱり『うる星やつら』だと思います。それまでは、どっちかというと二枚目路線で突っ走ってやっていたんですけど、基本的には劇団テアトル・エコーにいるときから、人間的に愛すべきキャラクターやギャグをやりたいと思っていたんです。だから、面堂君をやったときに、「あんなかっこいいのに、バカだ、こいつ」と思ってうれしかったんですよ。彼がむき出しの人間性を思い切り出すところは、すごく楽しくやらせていただきました。同時期にラジオの『オールナイトニッポン』でディスクジョッキーをやっていて。そこでは、ありのままの自分を分かってもらいたいということで、あえて三枚目な雰囲気でやっていたんです。その番組と『うる星』を経て、『キン肉マン』にたどりついたんですよ。
――三枚目のキャラクターに磨きをかけていったわけですね。
神谷 はい。それまで僕の出たアニメを観てくれた人は、初めて『キン肉マン』を観たときに度肝を抜かれたと思いますが、『オールナイトニッポン』を聴いていた人は、「これ、まんま神谷さんじゃん」って思ったでしょうね(笑)。僕には夢がありまして。まずは、三枚目をやりたかったんですよ。それは『キン肉マン』で実現できた。そして、もう一つの夢は渋い二枚目をやること。それも、『北斗の拳』のケンシロウで実現した。さらに『シティーハンター』で、すべてのキャラクターを網羅したような冴羽獠という役をいただくことができた。声優として、こんな幸せなことはないですよ。

■いい作品に操られながら自由に変われるのが楽しい

 
――それぞれの役と出会う順番や時期も完璧だったわけですね。
神谷 そうそう。いわゆる年齢的なキャリアのタイミングも、そこでなければダメだったと思います。
―― もし、20代の神谷さんが『シティーハンター』に出会っていても?
神谷 まずオーディションに受からなかったと思います(笑)。やりたいと思ったでしょうけど、絶対に無理でしたね。若い声優さんで、ハイレベルな役をやりたいと思う人がいるかもしれないけど、待ったほうがいいと思うんですよね。その前にしっかりと力をつけておかないと、役に追い回されて、役を楽しめないと思うんです。僕は、キン肉マンも、ケンシロウも、獠ちゃんも本当に楽しむことができました。そういえば、『シティーハンター』のプロデューサーが、『名探偵コナン』を始めるとき、「神谷さんと一緒にやった番組は長く続く」って、僕の顔と名前が浮かんだらしいんですよ(笑)。一緒にやった『シティーハンター』も『YAWARA!』も長かったので。しかも彼は、僕がそれまでやったこともない、毛利小五郎というキャラクターを振ってくれた。この役ともいいタイミングで出会えたと思うし、本当にありがたかったですね。途中で2代目に席を譲りましたけど、今も作品は続いていますし、恩は返せたかな(笑)。彼とはいまだに遊び仲間なんですけどね。
――二枚目のキャラと三枚目のキャラ、演じるときに意識することは、大きく違ったりするのでしょうか?
神谷 (役者以外だと)そう思われる部分もあるのかもしれませんが、簡単なことなんです。本(台本)、作品に操られるんですよ。例えば、『シティーハンター』の獠ちゃんは、(二枚目と三枚目が)コロコロコロコロ変わりますけど、あれはもともと原作にあったもので。北条司さんはストーリーテラーとして優れている方だから、本が何も無理してないんですよ。だから、自由に操られるがごとく変わっていけて、それが楽しいんです。
■『NHK趣味どきっ!一声入魂!アニメ声優塾』より
神谷明さんが講師を務める回が9月8日(火)午前11:30よりEテレで放送されます。ぜひご覧ください。

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