関 智一さん、「芝居に中身がない」と言われた養成所時代

『ドラえもん』のスネ夫、『妖怪ウォッチ』のウィスパーなども演じる関智一さん。撮影:石川登
毎回、熱血バトルを繰り広げた『機動武闘伝Gガンダム』のドモン役でのブレーク以降も、クール系からギャク系まで、さまざまな方向性のキャラクターで人気を集めてきた関智一(せき・ともかず)さん。その変幻自在の芝居の基礎になったのは?

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■放課後には公園で遊ぶ古きよき昭和の子ども

――子どものころの関さんは、どのような少年だったのでしょうか?
関 当時はテレビゲームとかもなかったので、基本、外で遊ぶしかない感じだったんですよね。だから、放課後は公園に集合して遊ぶという、いわゆる古きよき昭和の子どもでした。たぶん、周りの空気を読むほうで。親の顔色もうかがうような、ちょっと子どもらしくないところもあるタイプだったかもしれません(笑)。
――当時、好きだったテレビ番組などを教えてください。
関 『マジンガーZ』に『ゲッターロボ』とか、『ゴレンジャー』とか、男の子向けの番組は大体観てました。
――では、声優になりたいと思うようになったのは、いつごろですか?
関 きっかけは覚えてないのですが、小学校の卒業文集には「声優になりたい」と書いていたんですよね。小さいころから、親がラジカセで僕の発育の記録を残していて、テープに声を録音するのが日常的なことだったんです。親が共働きだったから、一人で留守番をしている間に声を録音して、帰ってきた親に聞かせたりしていました。その楽しさと、好きだったテレビアニメの声優さんという仕事が一致していったのかなと思います。

■芝居に「中身がない」と養成所のころから言われた

――声優になるため、どんな行動を?
関 新聞で声優養成所の広告を見つけたのですが、募集要項が16歳以上だったんです。まだ、中学生だったから、とりあえず中学時代は陸上部の活動に打ち込みました。でも、演劇をやりたいという気持ちもあったので、部室をのぞきに行ったんですけど、部員のほぼ全員が女子で。思春期だったから恥ずかしくて、ちょっと演劇部には入れませんでした。ただ、高校に進学したら、陸上部のレベルが高くなって、僕では全然通用しなかったんです。そうしたら、陸上が一気につまらなくなって。「俺、なんかやりたいことなかったかな……あ、そうだ、声優とか、お芝居をやりたいな」と思ったんです。それで、高2の春から3年間、養成所に通いました。
――声優養成所で学んだことで、特に印象に残っていることを教えてください。
関 今思い返すと、具体的な技術よりも、メンタル的なことのほうが大きかったです。高校生で社会経験もなかったので、当たり前のことを怒られてました。すごく印象に残っているのは、練習して授業で発表した課題の出来があまりよくなかったときのことなんですが。講師の方の機嫌を悪くしてしまったかと思って、授業後に追いかけて謝ったんです。「練習できてなくて、申し訳ありませんでした」って。そうしたら、「僕に謝る必要はないでしょう。声優を目指そうと思ったときの自分に謝りなさい」と言われて。それは自分にとって、すごくセンセーショナルな言葉でした。記憶に残っているのは、そういうことですね。
――養成所を卒業して、事務所所属になった後の新人時代、課題にしていたことや苦手だったことなどはありますか?
関 養成所にいたころ、「うまいけれど、よい芝居じゃない」「中身がない」みたいなことをずっと言われていました。ものまねが好きで小器用なところがあったから、耳で聴いたものを再現するのは得意だったんです。たぶん、そればっかりになって、中身が感じられなかったんでしょうね。そのことは10年くらいずっと悩んでいました。
――どのように克服したのですか?
関 ある舞台の本番をやっているとき、相手役の人から夜に電話がかかってきて、文句を言われたんです。「私に向かって、ちゃんと芝居をしてほしい」って。「してるつもりだけど?」と返したら、「全然、響いてこない」と言われ、大ゲンカですよ(笑)。お互いに泣きながら、辞める辞めないみたいな話にもなって。自分へのふがいなさだと思うんですけど、すごい怒りが沸いてきたんです。そのとき、ふと冷静になって「あ、この気分は、今やってる役に近いかもしれない」と思って。急に「分かった気がするから、またね」と言って電話を切り、その気持ちを忘れないように何度も思い返してはイライラしながら、翌日の本番に臨んだんです。そうしたら、芝居の初めから終わりまで気持ちが流れている感覚を初めて感じられたんですよ。相手役にも、「やればできるじゃん」みたいなむかつく感じで褒められました(笑)。そのとき、ずっと言われてきた「中身がない」ということの端っこが分かった気がしたんです。翌日、同じようにできるかと思ったら、また再現をしようとしちゃって、できなかったんですけどね(笑)。でも、そういうことを繰り返していくうち、徐々に言われなくなりました。
■『NHK趣味どきっ!一声入魂!アニメ声優塾』より

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