佐藤天彦八段、久々の外出で服装に悩む

ファッション通として知られる佐藤天彦(さとう・あまひこ)八段ですが、先日は買い物に行く際の服装選びに困ってしまったとか。

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久しぶりの買い物の日に、さて、何を着ていこうかな…と考えたときのこと。そういえば、こんなふうに着ていく服をあらためて考えるのは久しぶりだなとも思いました。
というのも、最近は対局が多く、あまり「趣味」の私服を自由に着ていける外出というのがなかったのです。
対局は基本的にスーツなので、ネクタイやシャツの合わせなど、考えるといってもある程度パターンが決まってきます。
研究会やVSは私服ですが、僕にとっては、このようなときも服装に制約があります。僕の所属している研究会やVSの多くは床に座って指すスタイルです。この場合、実は下半身のコーディネートにかなり影響が出てきます。
棋士なら誰もが感じていることですが、正座というのはパンツ(ズボン)が非常に傷みます。スーツのスラックスが傷んだり、しわが入ってしまったりというのは棋士共通の悩みでしょう。
要するに、そういったシチュエーションにお気に入りの服を着ていくかどうか、というのが問題になります。このアン・ドゥムルメステールのパンツを着ていきたいけれど、今日は床座りだから傷む、どうしよう…となるわけです。
どうしてもそのパンツではないと全身の雰囲気が合わないときは履いていったりもしますが、ちょっとした葛藤です。
それに、最近は細身のパンツが主流ですが、正座やあぐらなどになると生地が突っ張ってしまうので、これも候補から除外しなければいけません。
次に、靴。アンというブランドの足元はブーツが多く、僕もブーツは好きなのでけっこう持っています。ただ、ひもがたくさん付いていたりして着脱に時間がかかるものもあり、こういったものは不向きといえます。
最近こそ着脱が容易な靴も持っていますが、なかったときは着脱に時間のかかるブーツで行っていたこともありました。そもそも、このような制約をいろいろ考えて乗り越えてまで、研究会におしゃれをしていくのかという問題もあります。
おしゃれをしていったとき、「このあと何かあるの?」と言われたこともあります(笑)。
結局、今ほど服にこだわりがなかったときにしていたカジュアルな格好に研究会ファッションは落ち着いています。そういうわけで、久しぶりの外出で自由に「趣味」の服が着られることになったのです。
ところが、「自由」というのもやっかいなもので、制約がないと一気に自分のワードローブの全ての服が使えてしまうので、可能性が多すぎて、久しぶりだと「こんなとき、どういうふうに着ていたっけ」と混乱することもあります。
このあたりが「あらためて」考える、という感覚につながったのでした。
最近はそんな中でも、自分が楽しく納得できる服装で出かけられたりしていますが、僕も服好きがよく自嘲する「買い物に行くための服の買い物」をしている一人なのかもしれませんね。
■『NHK将棋講座』2015年7月号より

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