着手を「意識」できるかどうか

テキスト『NHK 囲碁講座』で小林覚(こばやし・さとる)九段が講師を務める別冊付録「個性で打つ碁のすすめ」。碁の初心者が自分の「個性」に出会い、棋風を確立するために、例題を解きながら学んでいきます。ここでは黒番の例題と、3パターンの着手についての解説を見ていきましょう。

* * *

地(実利派)、厚み(模様派)、攻め(好戦派)。棋風を3つに分けてこの2か月間、「棋風診断」に取り組んでいただきました。今月で3回目です。少し飽きてきたでしょうか(笑)。でもね、自分の棋風を知っておくのは上達のうえでも欠かせないし、碁を楽しむうえでも必要です。意外にね、問題作りも大変なんですよ、これ(笑)。
冗談はこれくらいにしましょう。皆さん、何か違和感を覚えませんか?序盤の一手を選ぶだけで棋風が分かるなんて。そして、序盤のたった一手の精神をずっと背負っていくなんて! まるで修行のような過酷さですよね。実はプロの碁では、地を稼いだあとに模様を張ったり、模様を張ると見せかけて実利に走ったりすることは日常茶飯事です。ではなぜ、初心者の皆さんに、あえて修行みたいなことをさせるのか。
そのカギは、“意識”が握っています。ぼくたち棋士は自在に「地・模様(厚み)・攻め」を行ったり来たりできます。それは打つ手のすべてを分かっているからです。こう言うと語弊があるでしょうか。「分かっているつもり」と解釈してください。初心者のうちはとてもそんなことは無理です。だからこそ今は、「地・模様・攻め」に絞って、自分が今打ちたいと思っている手は何に適しているのかを知っていただきたい。そこが分かれば、碁は今より何倍も楽しくなってきます。
いちばんいけないのは、自分がどうしてそこに打つのかを“意識”していないこと。意識を持たない着手を重ねると、そのうち自分はいったい何をやっているのかが分からなくなります。目的のない毎日を過ごしているのと同じ。囲碁が大変つまらないものになってしまいます。
ここさえくぐり抜ければ囲碁はあなたのものになります。素直に盤面を見て、心引かれる着手を自然に選べるようになるまで、あと少しのところに皆さんは迫っています!

■例題:黒番

「攻めの手」と「模様の手」の見分けが意外に難しい?


■黒Aの解説

狙い  地を確保したら…
1図 黒1は上辺をガッチリ守る「地の手」です。これで白から打ち込まれる心配はなくなりました。ここが安定すれば、右上に白は入りづらくなるという副産物もあります。白2には黒3とがっちり受けておくのが黒1と好相性。これで右下黒も治まり形です。

留意点  黒3の位置を確認
2図 白2のスベリに、右下は手を抜きたくなる気持ちはよく分かります。次に黒3と構えれば右上が大きく膨らむ。でもね、上辺で「地の手」を選択した黒1とは不釣り合いなのです。黒3に打つのなら、黒1はaにあるほうが断然いいのですから。


■黒Bの解説

狙い 模様は大きく!
3図 黒1は模様構築を目指す一手。白2とこちらを備えれば、黒3、5を決めて7が絶好になります。前の2図との違いをしっかり感じ取ってください。模様は原則、大きいほうがいいのです。白が2で右上もしくは上辺に入ってくれば当然攻めに向かいます。

留意点 一手の遅れが命取り
4図 模様の碁を目指したのなら、白2に黒3を選んではいけない。右下黒は治まっても、白4と上辺に先着されると黒1の一子が中途半端になってしまう。白6で、もう黒模様は期待できなくなっています。この図でも、黒1と3は不釣り合いなのです。


■黒Cの解説

狙い 「攻め」の副産物
5図 黒1は隅を守った印象を受けますが、真の狙いは白への攻めです。白2なら黒3、5と仕掛けるのが常とう手段。4図では本図の白14で持て余し気味でしたが、本図では黒15でまだ攻めを狙えます。これも右辺白を攻めて厚みを蓄えたおかげ。攻めの副産物です。

留意点 途中で放棄すると…
6図 せっかく黒1と攻めの態勢を築いても、白2に黒3と地を気にしてしまうと瞬く間に盤上のバランスが崩れるのです。白4から8で攻守逆転。左上の黒二子が被告です。黒1を「地を稼ぐ」の意識を持って打たれた方は、黒3と構えてしまいそうですね。

■『NHK囲碁講座』2015年6月号より

NHKテキストVIEW

NHKテキスト囲碁講座 2015年 06 月号 [雑誌]
『NHKテキスト囲碁講座 2015年 06 月号 [雑誌]』
NHK出版 / 545円(税込)
>> Amazon.co.jp

« 前のページ | 次のページ »

BOOK STANDプレミアム