寝苦しい夜も作句のチャンス? 涼を得るための「枕」を詠む

梅雨が過ぎ去ると夏本番。寝苦しい熱帯夜がやってきます。人は心地よく眠るために、寝具に工夫を凝らしてきました。俳人協会理事の櫂 未知子(かい・みちこ)さんが、「寝苦しき夜の枕」を題材にした句を紹介します。

* * *

就寝の際に涼を得るもののうち、一番手っ取り早いのは「枕」の類です。「籠枕(かごまくら)」「陶枕(とうちん)」などをすぐに思い出すかたも多いことでしょう。どちらかといえば、昼寝にふさわしいもののようですが、いずれにしても涼感が命ですね。
籠枕きしきし鳴いて定まれり

齋藤朝比古(さいとう・あさひこ)


陶枕の仏具のやうなしづけさよ

藤田直子(ふじた・なおこ)


どちらの句も、それぞれの枕の質感をよく描いています。一句目、竹や籘(とう)で編んだものですから、当然かすかな音がします。たしかに「定ま」るまでに少しの時間を要するかもしれません。二句目は文字通り陶器でできた枕であり、ひんやりとした硬さが印象的です。「仏具のやうな」、なるほどと納得しました。
これら、主に昼寝関係の季語に対し、寝苦しい夜をずっと共にしてくれる季語があります。「竹婦人」(竹夫人)です。タケフジンではなくチクフジンという読み方の面白さもさることながら、言葉のもたらす楽しさがこの季語を支えているといってもいいでしょう。
竹婦人は、ごくあっさり言ってしまえばいわゆる「抱籠(だきかご)」です。もともと中国大陸から朝鮮半島を経て日本に来たのではないかと言われており、江戸時代の俳人・蕪村(ぶそん)もこの季語で作品を残しています。
ではまず、竹婦人そのものについて詠(よ)んだ作品を見てみましょう。
竹婦人竹の匂ひのほか持たず

中根美保(なかね・みほ)


香水で身を飾ることもなく、よけいなものを一切持たず……。とにかく身一つであらわれた潔さがあります。素材で勝負した、まことに涼やかな作品です。
竹婦人声の出る箇所ありにけり

山田露結(やまだ・ろけつ)


ふと触れた時、かすかな軋(きし)みか何かを作者は感じたのでしょう。なまなましい句ですが、それをあっさりと作品にしたところに好感が持てました。
血液はさらさらといふ竹婦人

下村志津子(しもむら・しづこ)


近年は何につけても「血液サラサラ」がよく言われるようになりました。この句は、そのあたりの流行を踏まえつつも、季語のありようをよく生かしている作品です。血管元気、血液元気。声に出して読んだ時にも、さっぱりとした味わいがあり、素晴らしい句だと思います。
■『NHK俳句』2015年6月号より

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