羽生善治名人の好きな映画

写真:河井邦彦
中村太地(なかむら・たいち)六段からのバトンを受けていただくのは、名人戦で激闘を繰り広げている羽生善治(はぶ・よしはる)名人。前回登場の中村六段の質問のほか、加藤一二三(かとう・ひふみ)九段からの質問もお預かりした特別編でお送りします。あなたの知らない魅力にどこまで迫れるでしょうか?

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■加藤一二三九段より羽生善治名人への質問

Q 羽生さんとわたくしの会話で、以前、映画『ひまわり』(マルチェロ・マストロヤンニとソフィア・ローレン主演)の話題が出たことがあります。お好きな映画を、その理由とともに、教えてください。
小津安二郎監督の『東京物語』が好きですね。小津監督の作品はわりにゆったりと構えて観られるように作られている印象があります。当時はそれがひとつの技法と言うか、印象に残るための方法だったんでしょうけど。
内容についても、凝った設定とかすごく意外な展開とかがあるというわけではないですから、たまにちょっとよそ見をしても大丈夫かな(笑)、みたいな安心感というか。平凡な日常のことを描かれているというか。
でも、逆にいうと、けっこう昔に作られているもののはずなのに、時代が変わっても「平凡な日常」と感じられるということは、すごく普遍的なテーマについて表現されているということだと思うんですね。それが国際的にも高く評価されている理由かなと思います。
たとえば小説だと三浦綾子さんの『氷点』という作品をとても興味深く読んだ時期があります。テーマは、と聞かれたら「原罪」です、ということになると思うのですが、たとえば「では『原罪』について考えてみよう」といきなり言われても、よく分からないと思うんです。でも、物語の形で、ある程度具体的に、できごとだったり、その登場人物の感情の動きだったりというものによって見せられることで、自分にひきつけて考えることができるようになる。文学作品とか映像作品が存在している理由っていうのは、時代が変わっても人が向き合わなければいけないテーマみたいなものについて説明するときにすごく有効な手段だからなのかな、というようなことを思うことがあります。

■中村太地六段より羽生善治名人への質問

 
Q 棋士としていちばん大事にしていることは何ですか?
ずいぶん昔に廣津先生(久雄九段)に、「棋士はできるだけいろんな人に会ったほうがいい。会えば、よほど変なことをしない限り、個人として応援してくれるし、将棋に関心を持ってもらえる」と言われたことがあったんですよ。まあなんというか、棋士ってそんなに人数もいませんし、珍しがって覚えてもらえるということもあると思うんですが(笑)、それはほんとにおっしゃるとおりだなと。
「普及のためには、将棋を少し知っている人をたくさん増やすのが大事」ということを以前に言ったんですけれども、そのためにも大事なことかなと思って、心がけていますね。
■『NHK将棋講座』2015年6月号より

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