GNP比2.8%の国費をつぎ込んだ圧倒的デコ建築「日光東照宮」

5000体以上もの装飾彫刻が施されているという日光東照宮(にっこうとうしょうぐう)。2015年は、徳川家康公の東照宮御鎮座400年という節目の年だ。日本美術を主な領域とするライター、エディターの橋本麻里 (はしもと・まり)さんが、日光東照宮が建立された背景をガイドする。

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ドイツの建築家ブルーノ・タウトによる有名な「建築の堕落」という酷評が本当かどうか、まずは自分の目で見てみてほしい。金、黒、白、赤、緑と炸裂する色彩。艶やかな漆。目を射る飾り金具。その光を吸い込む白い胡粉(ごふん)の荘重。霊獣(れいじゅう)、仙人、動物、植物など、森羅万象(しんらばんしょう)をかたどった精緻極まりない彫刻群。デコトラ、あるいは山笠などを連想させる、あらゆる色、質感、素材、形が凝集した濃密な装飾は、それ自体が聖性を帯び、熱帯雨林のような小宇宙をつくり出している。オトナになってから再訪する日光東照宮は、面白いことこの上ない、「落ちる」どころか「アガる」建築なのだ。
日光東照宮の社殿が現在の姿になったのは、元和3年(1617)の創建から19年後、3代将軍徳川家光(とくがわ・いえみつ)による「寛永の大造替」のときだ。わずか1年5か月で竣工という突貫工事だったため、動員された職人や工人などの総延べ人数は約650万人に上るという(日光東照宮の顧問である高藤晴俊〈たかふじ・はるとし〉氏の試算)。また宇都宮大学名誉教授・小西俊正(こにし・としまさ)氏の試算では、総工費はGNP(国民総生産)比の2.8%にも達したとされる。家光の祖父家康(いえやす)に対する熱烈な崇拝ぶりはつとに知られた事実だが、これだけの国家的な大プロジェクトを遂行する理由は、祖父への崇拝心からだけでは、むろんない。戦国の騒然とした気配が島原の乱(1637〜1638)を最後に押さえ込まれ、徳川幕府による支配と秩序が揺るぎなく完成されようとする時期、その創始者である家康を顕彰し、幕府の威光を全国に知らしめるために、そして江戸、ひいては将軍家の霊的な守りを固めるために、江戸の真北に位置する由緒ある霊山、日光に、東照宮が築かれたのである。
■『NHK趣味どきっ! 国宝に会いに行く 橋本麻里と旅する日本美術ガイド』より

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