矢内理絵子女流五段、山あり谷ありの“さんぽみち”

NHKテキスト『将棋講座』で連載してきた女流棋士のリレーエッセイ「さんぽみち」、最終回は矢内理絵子(やうち・りえこ)女流五段が登場。

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皆さん、こんにちは。矢内理絵子です。リレーエッセイの「さんぽみち」、自分にバトンが回ってくると何を書こうか迷います。そこで私が歩んできた女流棋士としての道を、良いところだけ振り返りたいと思います。
1993年、女流プロ棋士デビュー。まだ中学2年で、対局室の場所さえ分からない状態。この年に倉敷藤花戦ができ、ベスト8に勝ち上がれたことが自信になりました。
95年、タイトル初挑戦。高校1年のときで親元を離れて遠征するのも初めてのことでした。特に第1局は緊張し、対局中も体の震えが止まりませんでした。結果は残念でしたが憧れの舞台に立てたことは大きな経験です。
97年、初タイトル獲得。高校3年で女流王位を獲得することができました。全局「菊水矢倉」を採用し、自分の力を出し切れたシリーズでした。表彰式後に行われた羽生先生とのお好み記念対局は夢のような時間でした。
98年、レディースオープントーナメント初優勝。将棋一本の生活となり生活環境が変わった中、結果が出せて嬉しかった記憶があります。前年は準優勝だったのでなおさらです。
ここまでは我ながら最高のスタートだったと思いますが、このあと冬の時代に入ります。私生活でも大きな影響を受ける出来事がありました。奨励会も退会し、一つの夢に破れました。初めてとも言える挫折、慟哭の時期にも将棋という相棒がいてくれたこと、タイトル戦に出る目標があったことが、自暴自棄になりそうな私の心の支えでした。そして…。
06年、女流名人獲得。長いトンネルを抜け、ついにつかんだ光でした。勝負に勝ってこれほど嬉しかったことは後にも先にもありません。この獲得と女流名人3連覇は私の人生の宝物です。
08年、マイナビ女子オープン『女王』獲得。そして2連覇。女流名人と合わせ初めての二冠になり、嬉しさとともに責任感が増した時期です。後輩との番勝負も経験するようになり、精神的にも鍛えられました。この女流名人と女王の獲得があったからこそ、今の自分があると思っています。人生を変える勝負もある、ということを実感しました。14年、女流五段昇段。四段昇段から10年もかかり、遠回りをした感は否めませんが、それも一局。自分らしくもあり素直にうれしく思いました。
私の女流棋士としての道は大きな山も谷もあり平坦ではないけれど、とても充実した21年間の道だったと思います。これからも慌てずに周りの景色も楽しみながら一歩ずつ確実に少しでも長い「さんぽみち」を作っていきたいと思います。
■『NHK将棋講座』2015年3月号より

NHKテキストVIEW

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