フランケンシュタインを書いた19歳の女性作家、その知られざる素顔

メアリ・シェリーと夫パーシー・ビッシュ・シェリー
『フランケンシュタイン』作品の名前は、映画やテレビドラマ、漫画などあらゆる翻案を通して広く知られているが、フランケンシュタインが「怪物」の名であると混同している人が多いようだ。原作では怪物に固有の名前はなく、言葉を話せるばかりか、人並み以上の知性や教養を具えているのをご存じだろうか。そしてその作者が、19歳のイギリス人女性作家であることを知る人も、意外に少ないのではないだろうか。京都大学大学院教授の廣野由美子(ひろの・ゆみこ)氏が、作者メアリ・シェリーの生い立ちを語る。

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作者メアリ・シェリーは、『フランケンシュタイン』の巻頭に「『政治的正義』、『ケイレブ・ウィリアムズ』などの著者ウィリアム・ゴドウィンに、この本を謹んで捧げる」という献辞を添えていますが、この相手とはつまり父親です。メアリの父ウィリアム・ゴドウィンは、『政治的正義の研究』(1793年)の著者として知られる政治学者で、小説家でもありました。
母のメアリ・ウルストンクラフトは『女性の権利の擁護』(1792年)を著した女権拡張論者で、やはり小説家でした。のちにメアリ・シェリー自身が『フランケンシュタイン』の1831年版の「序文」で記したとおり、彼女はまさに「二人の傑出した名高い文学者の娘」だったのです。また両親はフランス革命の支持者で、結婚制度に対しても懐疑的であったため、危険な急進思想の持ち主と見なされていた点でも有名人でした。
奔放な女性であったウルストンクラフトには、一時期同棲していたアメリカ人ギルバート・イムレイとの間に生まれた、2歳になる連れ子ファニーがいましたが、妊娠をきっかけに、ゴドウィンとの結婚を決意します。そして、1797年8月30日にメアリが誕生。しかし出産の数日後に、ウルストンクラフトは産褥熱(さんじょくねつ)で亡くなります。
赤ん坊と養女とともに残されたゴドウィンは、妻の死後4年目に、隣人のクレアモント夫人と再婚しました。自ら「未亡人」と称していたクレアモント夫人にも、二人の婚外子がいました。生まれながらにして母を失ったメアリでしたが、この継母(ままはは)の出現は、彼女にとって喜ばしい出来事ではありませんでした。自分を疎(うと)んじる継母と折り合いが悪く、メアリは、父と亡き母への敬愛をいっそう強めます。寂しさを紛らわすために、たびたびウルストンクラフトの墓を訪れては、そこで母の著作を読みふけったと言われています。
未来の夫との出会いは、まだメアリが少女といってよい年齢のころのことです。ゴドウィンの家には、彼の先進的な社会改革思想に傾倒する多くの信奉者たちが出入りしていて、そのひとりが詩人パーシー・ビッシュ・シェリーでした。彼は、身分の高い裕福な地主の息子で、オックスフォード大学在学中に無神論を唱えて放校処分になり、妹の友人ハリエットの不幸な境遇に同情して、かなり性急な結婚をします。しかし妻とは事実上、別居状態でした。そんななか、指導者の家に足しげく通ううちに、美しく聡明な女性メアリと親密になったのです。
愛を誓い合った二人は、1814年7月、パーシーが21歳、メアリが16歳のときに駆け落ちをし、ヨーロッパ大陸へと旅立ちます。なぜ若い二人が駆け落ちという道を選択したかといえば、自由恋愛の信奉者であったはずのゴドウィンが、娘の結婚に対しては反対だったからです。この旅にはなぜか、クレアモント夫人の連れ子ジェイン(のちにクレアと改名)も同行することになりました。
一行はいったん帰国しますが、ゴドウィンの怒りは解けず、実家に戻ることもできないまま、1815年2月にメアリは女児を早産し、十日あまりのうちに赤ん坊は死んでしまいます。まもなくメアリは二度目の妊娠をし、1816年1月に、長男ウィリアムを出産しました。父と同じくウィリアムと名づけたにもかかわらず、ゴドウィンの怒りは和らがなかったようです。
駆け落ち同行後も新婚の二人に経済的負担を与えていたクレア・クレアモントは、やがて当時人気を博していた詩人ジョージ・ゴードン・バイロンに接近して、彼の愛人となります。このことがきっかけで、夫婦はバイロンと知り合います。『チャイルド・ハロルドの巡礼』(1812〜18年)で名を馳せていたバイロンと、パーシー・シェリーという、二大詩人が出会ったのには、こんな裏話があったのです。
■『NHK100分de名著 メアリ・シェリー フランケンシュタイン』より

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メアリ・シェリー『フランケンシュタイン』 2015年2月 (100分 de 名著)
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