円田秀樹九段が海外普及活動に力を入れる理由

1990年、フランクフルトでの第15期名人戦。後方左から三人目が円田九段 写真提供:日本棋院
円田秀樹(えんだ・ひでき)九段、1966年生まれ。日本棋院関西総本部のベテラン棋士として、過去に新鋭トーナメント戦優勝、棋聖戦五段戦優勝の実績を残している。
海外普及のエキスパートとして著名で、地元の大阪でカフェバー「エストレラ」を経営する異色棋士としても知られている。現在は日本棋院の関西総本部担当常務理事として碁界の発展にも尽力するなど、その活躍範囲と場所は多岐にわたるが、まずは自身で「僕の原点」と語る海外普及の話から。

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■きっかけは記録係

これまでに世界40か国くらいを回ったと思います。もともと海外を旅行することに興味があったのですが、きっかけは二十数年前、ドイツのフランクフルトに挑戦手合の記録係として行ったことでした。現地の方と、特に囲碁の好きな方と触れ合うのがとても楽しかったという記憶があります。
そのころは海外において、プロ棋士という存在は非常に希少価値がありました。ですから現地の方たちが私たちと接した際、すごく喜んでいただけたのです。それで私は「こんなに喜んでもらえるのならば」と思い、それからも海外へ普及に行くようになったのです。
最初は何のプランもなく、ただ気持ちだけがありました。私は元来、無鉄砲というか、何も気にしないタイプなのです。当然、言葉も分からなかったので、最初はコミュニケーションも取れなかったのですが、ボディランゲージというか「まあ、何とかなるだろう」と…。実際、それで何とかなってきました。
それでも意思疎通ができない面はあって、やはりいちばんの苦労だったのですが、こと囲碁をやる方とは、碁盤を通して大体のことは伝えられました。この点こそが囲碁の持つ最大の魅力と言えるかと思います。
普及の内容としては指導碁が主で、たまに講義をしたりもしました。そして海外の囲碁ファンは非常に積極的で、日本のファンのように受け身ではありません。疑問があれば遠慮なく質問してきますし、私が「こちらのほうがいいと思うよ」と言うと、向こうは「いや、自分はこれがいいと思う」と言ってきます。私が「でもそれだとこう打たれて…」と言うと「じゃあこうやるよ」と打ってくる。
とにかく納得するまで追及してきて、これはとてもいい姿勢だと思います。疑問を残したままでは意味がないので…。この点で、海外の囲碁ファンは「自分が納得する」ことを大事にしていると言えるでしょうか。
また積極性ということで言えば、ヨーロッパでは「GО・コングレス」という大会があるのですが、ペア戦とかがありますと女性が積極的に「先生、私と組んで!」と声をかけてきてくれます。そして女性だけの大会というのも盛んなのですが、そこには女装した男性も出ることができるという、実に面白いことがあります。日本の囲碁大会とは全く違った雰囲気で、「囲碁はゲーム、とことん楽しもう」という気持ちが伝わってきます。
■『NHK囲碁講座』2015年2月号より

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