栄養面でも優秀な保存食――へしこの栄養パワー

撮影:吉田篤史
福井県・若狭地方などで古くから食べられてきた魚のぬか漬け「へしこ」。濃厚なうまみが特徴の珍味として知られ、酒の肴(さかな)やご飯のお供にも人気の発酵食品です。東京農業大学応用生物科学部醸造科学科准教授の前橋健二(まえはし・けんじ)さんが、へしこの持つ栄養パワーについて解説します。

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世界でも有数の魚好きとして知られる日本人は、魚介をより長期間保存するため、そして、よりおいしくするために昔からさまざまな工夫を凝らしてきました。へしこもこうした生活の知恵から生まれた保存食のひとつです。
へしこの仕込みの時季は、秋から冬にかけて。さばやいわし、ふぐなどの魚のワタを除いたあと、まずは下漬けとして1〜2週間塩漬けにします。この間に魚自身がもつ消化酵素が働き、たんぱく質を分解してアミノ酸をつくる「自己消化」が進みます。さらに、たるいっぱいのぬか床に重ね入れておもしをし、数か月から1年以上にわたって漬け込むのが、本漬け。ぬか床に含まれる乳酸菌が魚のたんぱく質を分解して熟成が進み、へしこ特有の強いうまみや香りが生まれる一方、乳酸菌がつくる乳酸により雑菌の繁殖が抑えられ、長期保存が可能となります。
へしこに使われるさばなどには、DHA(ドコサヘキサエン酸)、EPA(エイコサペンタエン酸)といった必須脂肪酸が含まれます。これらは血中の脂質濃度を下げる働きをもち、生活習慣病予防への効果が期待される注目の成分ですが、時間がたつと酸化しやすいという弱点も。へしこは、ぬかの抗酸化力が酸化を防ぐことで、DHAやEPAを損なわずに長期間保存できます。また、ぬか床は、エネルギー代謝を助け、皮膚などの働きを整えるビタミンB群をはじめ、各種ミネラルなどの栄養も豊富。さらに、魚をぬかに漬けると、血圧上昇を抑える効果のあるペプチドの量が増加するという研究もあり、へしこは栄養の面でも優秀な保存食といえそうです。
■『NHKきょうの料理』2015年2月号より

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