家族の関わりが鮮やかに浮かび上がる「誕生日」の短歌

毎年やってくる「誕生日」は大切なイベント。誕生日のシーンがうたわれた短歌を、「かりん」編集委員の梅内美華子(うめない・みかこ)さんが紹介します。

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誕生日を毎年祝うようになったのは明治時代に西洋文化が日本に入ってきてからだそうです。それまでは高貴な身分の人だけが誕生日を祝ってもらっていました。現代では誕生日はイベントの一つとして重要視されています。家族一人一人の誕生祝いをしたり、恋人同士はプレゼントを贈り合います。その背景は消費経済によることが多いでしょう。お祝い事のたびに食事やプレゼントなどで消費が発生するので、商品もそれに合わせたものが多々開発されて提案されているのです。
誕生日を祝うのは、その歳までつつがなく生きていたこと、年齢の積み重ねを喜ぶことです。誕生日についてのさまざまな思いや場面がうたわれた作品を見ていきましょう。
われ植ゑて妻手料理の夕顔のそぼろあんかけわが誕生日

太田青丘『この星に生きて』


妻のため娘(こ)の購(もと)めきしバースディ・ケーキは四方八方いちご

小高 賢『液状化』


家族で誕生祝いをしている歌です。
太田作品は、主人公がみずから植えた夕顔に実がなって、それを誕生日に妻が料理してくれたという。「夕顔のそぼろあんかけ」が素朴でありながら手のこんだ料理で、ささやかながら充足した食卓が浮かび上がってきます。二つとも夫婦の手によるもの、それは何事にもかえがたい大切なことなのでしょう。われ・妻・わがの人称が続くことからも夫婦二人の営みを大切に思い、自愛する心が伝わってきます。
対して小高作品は、いかにも現代的な家庭の誕生祝いが描かれています。若い娘が自分の母親のためにバースディ・ケーキを念入りに選んできた、その報告を聞きながら父である主人公はにぎやかな食卓につきます。「四方八方いちご」はたくさん載っていることをやや大袈裟に表したものですが、張り切っている娘の気持ちが表れたケーキの豪華さに、くすぐったいような気分になっているのです。また娘や妻という女性陣のにぎやかさに圧倒されている父親の姿も想像される歌です。
■『NHK短歌』2015年2月号より

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