張栩九段は現状をどう捉えているか
- 撮影:河井邦彦
※2014年12月1日現在の記事です
七大タイトルをすべて制覇し、史上初の五冠にも輝いた張栩(ちょう・う)九段。周囲の「次は七冠」という期待に反し、その快進撃は井山裕太(いやま・ゆうた)六冠の台頭によって阻まれ、現在は無冠だ。
とはいえ張栩九段は34歳とまだまだ若く、全く老け込む年齢ではない。当然ながら虎視たんたんと巻き返しを狙っているものと思われるが、2014年は挑戦手合への出場がなかった。
果たして張栩九段本人は、現状をどのように思っているのか?
* * *
ちょっとふがいないですね。一生懸命やっているつもりなのですが…。読みの正確さや早さといった勝負に直結する部分で、少しだけ力が落ちたのかもしれません。
トップ棋士は皆、それぞれに強い部分があって、そうした中で勝ったり負けたりしているのですが、その差はほんの僅かしかなくて、ちょっと自分がうまくいってないと、それだけで成績は大きく崩れてしまうものなのです。今の自分は、そういうところが出てしまっているのかなと…。
体力的な部分でも、若かったころのようにはいかなくなってきました。以前は「ここが勝負どころだ!」と思った場面で高い集中力を発揮できたのですが、最近はそのあたりがうまくいかないことが多いのです。ほんの少し体力が落ちたことで、そこに至るまでに集中力が切れてしまっているのですね。
そして今は、若くて強い人がどんどん出てきていますから。体力的な比較から言っても、勝つことが難しくなってきています。
年齢を重ねるとともに、自分の役割が変わってきているような気もします。今はナショナルチームでコーチという立場も任されているので、若手の育成というか、若い人たちが世界で活躍できる環境づくりをはじめ、そういうことに関して少しでもサポートできればと、強く思うようになりました。
彼らが成長することは、自分にとって脅威でもあるのですが、どこかでうれしく思う部分もあります。勝負師として、ちょっと甘くなってきているのでしょうか。
世界的なことを言えば、中国・韓国はものすごく強い棋士が、どんどん育っています。それに比べたら日本は後れを取っていることは否めません。しかし最近は少しずつ差が縮まっている感じもするので、今すぐとはいかないでしょうけど、将来は楽しみです。
■勝つことだけではなく…
そして僕個人の話をしますと、今は「いろいろなことをきちんとやりたい」という気持ちが強いです。今までは碁で勝つことだけを考えてきたのですが、囲碁界全体のことを考えるようになってきました。
その観点から、四路盤を使ってパズル感覚で囲碁入門をする方法を考えたりしましたし、現在は他にも囲碁界を盛り上げる方法をいろいろと模索中です。自分なりにできることを、自分らしくやっていきたいと…。
碁についても、勝つだけではなく「深さ」を追求していきたいという思いが強くなってきました。少し前に呉清源先生の棋譜を並べていて思ったのですが、新布石時代の碁がすごく生き生きしていて面白いなと…。
現代はどんどん知識が増え過ぎて、定石ばかりで出来上がってしまっている。すごくレベルの高いことをやっているのかもしれないのですが、結局は全部が定石だったりするので、そこには個性が見えてこない。自分はそういうふうになりたくない気持ちがあり、ではどうすればいいのかを今は考えていて、それが「深さ」につながっていけばと。
もちろん、まだ勝負を諦めたわけではありませんよ。棋聖を失ったとき「井山さんに勝つのは大変かもしれないけど、タイトル戦の舞台にはすぐ戻ってこられる」と思っていました。でももう2年間、戻れていないわけです。そのことをまず謙虚に受け止め、そのうえでもう一度、井山さんに挑戦できるように頑張りたいと思っています。
■『NHK囲碁講座』2015年1月号より
七大タイトルをすべて制覇し、史上初の五冠にも輝いた張栩(ちょう・う)九段。周囲の「次は七冠」という期待に反し、その快進撃は井山裕太(いやま・ゆうた)六冠の台頭によって阻まれ、現在は無冠だ。
とはいえ張栩九段は34歳とまだまだ若く、全く老け込む年齢ではない。当然ながら虎視たんたんと巻き返しを狙っているものと思われるが、2014年は挑戦手合への出場がなかった。
果たして張栩九段本人は、現状をどのように思っているのか?
* * *
ちょっとふがいないですね。一生懸命やっているつもりなのですが…。読みの正確さや早さといった勝負に直結する部分で、少しだけ力が落ちたのかもしれません。
トップ棋士は皆、それぞれに強い部分があって、そうした中で勝ったり負けたりしているのですが、その差はほんの僅かしかなくて、ちょっと自分がうまくいってないと、それだけで成績は大きく崩れてしまうものなのです。今の自分は、そういうところが出てしまっているのかなと…。
体力的な部分でも、若かったころのようにはいかなくなってきました。以前は「ここが勝負どころだ!」と思った場面で高い集中力を発揮できたのですが、最近はそのあたりがうまくいかないことが多いのです。ほんの少し体力が落ちたことで、そこに至るまでに集中力が切れてしまっているのですね。
そして今は、若くて強い人がどんどん出てきていますから。体力的な比較から言っても、勝つことが難しくなってきています。
年齢を重ねるとともに、自分の役割が変わってきているような気もします。今はナショナルチームでコーチという立場も任されているので、若手の育成というか、若い人たちが世界で活躍できる環境づくりをはじめ、そういうことに関して少しでもサポートできればと、強く思うようになりました。
彼らが成長することは、自分にとって脅威でもあるのですが、どこかでうれしく思う部分もあります。勝負師として、ちょっと甘くなってきているのでしょうか。
世界的なことを言えば、中国・韓国はものすごく強い棋士が、どんどん育っています。それに比べたら日本は後れを取っていることは否めません。しかし最近は少しずつ差が縮まっている感じもするので、今すぐとはいかないでしょうけど、将来は楽しみです。
■勝つことだけではなく…
そして僕個人の話をしますと、今は「いろいろなことをきちんとやりたい」という気持ちが強いです。今までは碁で勝つことだけを考えてきたのですが、囲碁界全体のことを考えるようになってきました。
その観点から、四路盤を使ってパズル感覚で囲碁入門をする方法を考えたりしましたし、現在は他にも囲碁界を盛り上げる方法をいろいろと模索中です。自分なりにできることを、自分らしくやっていきたいと…。
碁についても、勝つだけではなく「深さ」を追求していきたいという思いが強くなってきました。少し前に呉清源先生の棋譜を並べていて思ったのですが、新布石時代の碁がすごく生き生きしていて面白いなと…。
現代はどんどん知識が増え過ぎて、定石ばかりで出来上がってしまっている。すごくレベルの高いことをやっているのかもしれないのですが、結局は全部が定石だったりするので、そこには個性が見えてこない。自分はそういうふうになりたくない気持ちがあり、ではどうすればいいのかを今は考えていて、それが「深さ」につながっていけばと。
もちろん、まだ勝負を諦めたわけではありませんよ。棋聖を失ったとき「井山さんに勝つのは大変かもしれないけど、タイトル戦の舞台にはすぐ戻ってこられる」と思っていました。でももう2年間、戻れていないわけです。そのことをまず謙虚に受け止め、そのうえでもう一度、井山さんに挑戦できるように頑張りたいと思っています。
■『NHK囲碁講座』2015年1月号より
- 『NHK 囲碁講座 2015年 01月号 [雑誌]』
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