雪兎を俳句に詠んで愛でる

その季節にぴったりの兼題を取り上げる、『NHK俳句』の連載「日本の季語遺産」。1月号では、俳人協会幹事の櫂 未知子(かい・みちこ)さんが、「雪兎(ゆきうさぎ)」を詠んだ句をご紹介します。

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ともすれば寒さゆえに家に閉じこもりがちな冬。しかし、そんな冬にも、ささやかな楽しみは存在します。たとえば子ども達にとっては、雪が降った時に、「雪だるま」を作ること、あるいは「雪合戦」をすることなどですね。昨年は関東近県を中心に珍しく大雪が降ったことと、さらには降った後の気温が低かったこととで、長いことあちこちに雪が残っていました。そのせいで、雪だるまもしばらくとけずにいたことを覚えています。道の歩きにくさに閉口しながらも、時折出合う街角の大小の雪だるまに、思わず微笑したかたは多いのではないでしょうか。
雪だるまは、世界共通の単純な形が楽しいですね。それに対して、今回の兼題である「雪兎」はもう少し雅(みやび)なものです。雪だるまは出来上がった後も屋外に置かれますが、雪兎は塗りの盆などに載せられて、人々に鑑賞されるべく屋内に運ばれます。つまり、雪だるまはあくまでも楽しさがメインになり、雪兎は小さくて美しいことがひたすら愛される、そのあたりに違いがあるようですね。同じものから作られたのに、一方は童心そのものであり、もう一方は懐石料理の一品のようなイメージです。もとは同じ雪なのですが……。
雪よりも少し汚れて雪兎

今瀬剛一(いませ・ごういち)


上品なお盆に載せられるぐらいなのだから、雪兎はあくまでも美しくありたい、真っ白でありたい。しかし、少しでも人の手が加わるということは、まっさらそのものではなく、〈少し汚れて〉登場することを意味します。この句は、そのあたりを大げさに言ってはおりません。〈少し〉にこめられた、作者の優しい気持ちが感じられる作品です。
■『NHK俳句』2015年1月号より

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