女の死体が落下... 「トンネル怪談」の元ネタが怖すぎる!
- 『怪談現場 東海道中 (イカロスのこわい本)』
- 吉田 悠軌
- イカロス出版
- 1,620円(税込)
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夏といえば海や花火、浴衣などが風物詩として思い浮かびますが、もうひとつ外せないのが、怪談。怪談なんて作り話でしょ? と思う人も、実在する土地に関連した話なら、リアルに感じられるかもしれません。『怪談現場 東海道中』は、オカルトスポット探訪マガジン編集長の吉田悠軌さんが、東京~大阪間の東海道中界隈に残る"怪談"を集め、検証した一冊。怪談の元となる怪異が起こった時期や場所などを絞り込み、さらにその土地で過去に起こった事件、歴史的背景などを絡め、怪談を検証・考察しています。
掲載されている中で特にインパクトが強いもののひとつが、トンネルで語り継がれている怪談。若者数人が肝試しに心霊スポットのトンネルを訪れると、車の天井に血まみれの女が落ちてきて、慌てて発進しガソリンスタンドに逃げ込むと、車にはびっしりと手形が。さらに友人の1人がいなくなっていることに気づき、トンネルに戻ると、友人は1人立ち尽くし、話しかけても何の反応もない。どうやら精神に異常をきたしているようだった......というものです。
どこかで聞いたことがあるような怪談ですが、本書によるとこれには明確な"元型"が存在するのだそう。それが、1970年代半ばにタレントのキャシー中島さんが、神奈川県逗子市の小坪にあるトンネルで体験したという現象。
中島さんはある時、仲間4人と肝試しのために小坪の「お化けトンネル」に行ってみることに。車でそのトンネルを走ってみると、青白い光がフロントガラスにぶつかり、光は一瞬、人の手の形になり、指紋だけを残して消え去ります。そしてその直後、車の天井がきしみ、まるで巨岩が落ちて来たかのような衝撃が。その後トンネルを抜け、ガソリンスタンドのベンチで先ほどの現象について話していると、仲間の1人がいないことに気づきます。車に戻ってみると、その仲間は助手席に座ったままで、なぜか顔を真上に向けた状態で硬直。その顔は「ニヤッ!」と歯をむき出しにし、笑い顔ともしかめっ面ともいえない表情で、体は石のようにこわばっており、どんなにゆすっても反応はなし。彼は家に送り届けられた後、脳神経科の病院に入院。その10日後、中島さんがお見舞いに行くと、彼の顔は歯をむき出しにしたあの笑顔で固まったままだった......これが、先の怪談の元型だとされています。
本書では複数ある「小坪トンネル」の中から、話の内容や当時のシチュエーションをもとに現場と思しきトンネルを2つに絞り込んでいます。場所が明らかになっていくことで、怪談がより身近で、臨場感を持ったものになっています。さらにはそのスポットの背景を知るために、過去にあった小坪トンネルにまつわる怪談も検証。実は近所の住民を見間違えただけだった「若い女の幽霊が出る」という怪談や、悲惨な死亡事故が背景にあると思われる「生首が飛ぶ」という怪談など、小坪トンネルにまつわる話を読み解いています。
では、肝心の中島さんの体験はどうなのでしょうか。怪談の収集や怪奇スポット探訪をライフワークにしている吉田さんは、これまでの経験から、怪談は河川や海、埋め立て地など「水の記憶」のある土地に残っていることが非常に多いとし、この場合もこの小坪界隈が土砂災害の多い地域であることを指摘。「台風や豪雨による土砂災害もまた一種の『水の記憶』だとすれば、もともと霊感の強かった中島が、この土地一帯の水の記憶を無意識に読み取ったものだと考えられる」と分析しています。その他にも日本人の「山岳信仰」の影響を加味するなど、様々な側面から読み解く怪談は、オカルト好きならずとも興味をそそられそうです。
本書ではこのほかにも、箱根や熱海、京都や大阪など、観光地としても知られる場所の怪談も掲載。一読してからその地を訪れると、これまでと少し違った景色に見えてくるかもしれません。