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海老沢泰久さんの『監督』をきっかけに、スポーツの執筆に関わるようになった------アノヒトの読書遍歴:柳澤健さん(前編)

ノンフィクションライターとして活動する柳澤健さん。主にスポーツに関する執筆を行っています。長く文藝春秋の編集者として「Sports Graphic Number」などに在籍した後、2003年に退社。2007年に処女作『1976年のアントニオ猪木』を発表。その後も『1985年のクラッシュ・ギャルズ』や『日本レスリングの物語』などを手掛け、今年1月には最新作『1984年のUWF』を上梓しました。今回は、そんな柳澤さんに、日頃の読書の生活についてお話を伺いました。

------まず、今年1月に発売となった『1984年のUWF』ですが、どんな内容になっていますか?
「80年代後半に人気のあったプロレス団体『UWF』について書きました。UWFは、ユニバーサル・レスリング・フェデレーションといって、アントニオ猪木さんのマネージャーだった新間寿さんが作った団体で、1984年にスタートしています」

------30年くらい前のお話ですね。
「はい。新間さんは、本当はタイガーマスクを連れてくるはずだったんですが、うまくいかず、しかたなく前田日明さんをエースにした。ところがその後、タイガーマスクの中の人である佐山聡さんが遅れて入団してくるんですね。佐山さんはスーパーな天才で、自分が日本中の人気者であったタイガーマスクであったことには何の関心もなく、まだ誰も見たことのない総合格闘技、打撃とレスリングと絞め技と関節技のすべてを含む競技を創始しようと考えていた。総合格闘技の嘉納治五郎を目指す佐山聡の加入によって、普通のプロレス団体であったUWFが、異常な団体、不思議な団体になっていく、そんなストーリーです」

------とてもおもしろそうですね! 柳澤さんと言えば、やはりスポーツ。これまでに影響を受けた本がありましたらぜひ教えてください。
「海老沢泰久さんの『監督』という本をご紹介しましょう。この作品は、現実のプロ野球の監督、ヤクルトスワローズの監督だった広岡達朗さんをモデルにした、架空の球団エンゼルスというチームの1年間を描いた小説です。広岡達朗は実名。でもそのほかの登場人物や球団名はすべて架空の名前というちょっと変わった小説なんです。現実の広岡監督がやったことを小説という形でやや脚色して描いた作品、といっていいと思います」

------どういったきっかけで、この本と出会ったのでしょうか。
「確か、小学館の『GORO』という男性向けの雑誌に連載されていたはず。大学時代の僕は、『ぱふ』というまんが専門誌の編集部で無給アルバイターをやっていました。そこで会った谷山雅計くん、いまは日本有数のコピーライターですけど、その谷山くんが『監督』を『面白いよ』と勧めてくれたんです。『監督』の直後に読んだニューヨーク・ヤンキースのピッチャーだったスパーキー・ライルの自伝『ロッカールーム』もめちゃめちゃ面白くて、夏休みには谷山くんと一緒にアメリカにメジャーリーグを見に行きました。1981年、有名なストライキがあった年です。以来、僕はアメリカの野球小説やスポーツ・ノンフィクションにハマっていくんです」

------そもそもですが、柳澤さんと「本」との出会いについて教えてください。
「小学校の頃はまんがをよく読んでいましたね。僕は結構まんが好きだったんですけど、雑誌の連載されているページを切り取って、自分で糸綴じしてファイルしたのは二作品しかありません。その一つが『あしたのジョー』です。『週刊少年マガジン』に連載された最後の方は毎号カラーページので、作画担当のちばてつや先生はさぞ大変だったはずですけど、子ども心にすごい迫力に圧倒されましたね」

------まんがから始まったのですね。まんがを含め、本は多く読まれていた感じでしょうか?
「読書量はたいしたことはなかったと思います、国語の成績はずっと良かったですが(笑)。あえて言えばギリシャ神話が好きで、中学生くらいのときによく読みました。特に、ギリシャ神話のオデュッセイアとかイーリアスとかがすごく大好きで、相当コアな『ギリシャ神話辞典』なども読みましたね。木馬で有名なトロイの遺跡を発見したシュリーマンを描いた『夢を掘りあてた人』という子供向けの本がきっかけだったんですけど、むちゃくちゃ面白かった。ギリシャ神話は聖書と同様に西洋文明の根本に存在するので、ちょっとでも知っておくといろんな面で得しますよ」

------ありがとうございます。後編では、柳澤さんが影響を受けた本について紹介します。お楽しみに。

<プロフィール>
柳澤健 やなぎさわたけし/1960年、東京都生まれ。慶應義塾大学法学部卒業後、メーカー勤務を経て文藝春秋に入社。編集者として「週刊文春」「Sports Graphic Number Number」などに在籍し、2003年にフリーライターとなる。2007年に処女作『1976年のアントニオ猪木』を発表。著書に『1985年のクラッシュ・ギャルズ』『1993年の女子プロレス』『日本レスリングの物語』『1964年のジャイアント馬場』『1974年のサマークリスマス 林美雄とパックインミュージックの時代』がある。2017年1月には『1984年のUWF』を上梓した。

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