人々を気づきへ導く『仕掛学』 著者が最先端のAI研究から転身したワケ

仕掛学
『仕掛学』
松村 真宏
東洋経済新報社
1,620円(税込)
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 男性用トイレ(小便器)にハエのシールを貼ることで、トイレ掃除が楽になる。小さな鳥居を置いておくことで、ゴミがポイ捨てされにくくなる――読者の皆さんも、一度はこうした「仕掛け」を目にしたことがあるはず。仕事をしやすくしたり、人々が気持ちよく生活するための仕掛けですが、「よくこんなやり方を考えたな」と感心すらしてしまいます。

 10月に刊行された本書『仕掛学 人を動かすアイデアのつくり方』には、冒頭の仕掛けのほか、「ピアノに見立てたデザインで実際に音も鳴る階段をつくり、運動不足を解消する仕掛け」「ゴミ箱の上部にバスケットゴールを設け、ゴミ捨てが楽しくなる仕掛け」などが紹介されています。また、ただ紹介するだけでなく、仕掛けの「原理」や「構成要素」などを、アカデミックに解説。たとえば、「バスケットゴールのあるゴミ箱」の仕掛けは、次のような人の心理に基づいたものであり、また"仕掛けること"に対する難しさもあるそうです。

「『挑戦してみたい』と思わせるような心理的な働きである。(中略)ゴミ箱の上にバスケットゴールがあるとシュートしたくなるのは、つい挑戦したくなるからである」

「このときに挑戦が簡単すぎても難しすぎても楽しくないので、ちょうど良い難易度に設定することが重要である」

「挑戦を利用した仕掛けは人を無邪気にさせるものが多いが、人の目が気になるような場所では仕掛けの効果は出にくい。バスケットゴールのついたゴミ箱をゴミは近づいて捨てるべきだと茶々を入れてくる人がいそうな場所に設置しても効果は出にくいだろう」(以上、本書より)

 さて、仕掛けについて、ここまで事細かに説明するのはどんな人物なのでしょうか? 著者の松村真宏さんは、大阪大学大学院経済学研究科の准教授。もともとは、人工知能(AI)の研究をしていたそうですが、「ある日、世の中のほとんどの事象はデータになっていない」ことに気づいたそう。そして、世界の至るところに存在する事象とそれらが持つ魅力に気づくためには仕掛けが不可欠だと思い立ち、考察を始めたといいます。

 最先端のAIからアナログな印象も受ける「仕掛け」研究への転身は、「意外」「もったいない」などと感じられるかもしれません。しかし、コンピューターの計算やデータだけでは、ときに不合理さも見せる人間の心理・行動を説明しきれないのも事実。さまざまな「仕掛け」のウラには、そんな人間らしさ、人間臭さが潜んでいるともいえそうです。

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