障害と知らず、自分を責めた日々も......発達障害のピアニストの"心の音"

脳科学者が選んだやさしい気持ちになりたいときに聞く 心がホッとするCDブック (アスコムCDブックシリーズ)
『脳科学者が選んだやさしい気持ちになりたいときに聞く 心がホッとするCDブック (アスコムCDブックシリーズ)』
中野信子
アスコム
1,296円(税込)
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 テレビ番組でもおなじみの脳科学者で医学博士の中野信子さん。9月発売の新著『脳科学者が選んだやさしい気持ちになりたいときに聞く 心がホッとするCDブック』(音楽・野田あすか、文・中野信子)は、実際の医療現場でも取り入れられているストレス対処法「マインドフルネス」に基づき、ピアニスト、野田あすかさんの楽曲を紹介するCDブックです。

 野田さんは、コミュニケーションの困難さや独特なこだわりがある「発達障害」の当事者。最近ではオリジナル楽曲の作曲や、コンサート活動も精力的に取り組んでいます。その音色は「涙があふれた」「ホッと安らげる」など各方面から絶賛の声が寄せられているのだとか。
 
今回は、そんな野田さんに、自身の半生やピアノへの想いについてお伺いしました。
 
* * * * * *
「ピアノの音は、私そのものなんです。言葉では自分の気持ちをうまく表現できないけど、ピアノだったら伝えられる」
 
 鍵盤に触れつつそう語る、野田さん。即興でオリジナル曲を披露してくれる瞬間もあるなど、取材は終始和やかなムードで進みます。

 野田さんは、子供の頃から「自分はみんなと違う」という違和感があったと言います。たとえば、小学校時代、校庭の草むしりをしなさいと言われて、言葉通りに受け止めてしまう野田さんは、チャイムが鳴ってみんなが教室に戻って次の授業が始まっていることに気付かず、ひたすら草むしりを続けていて、「どうして教室に戻ってこないの!」と教師に叱られたこともあったのだとか。

 学校生活でも、「まるで、自分だけ違う世界を生きているような感覚、いつもひとりぼっち。私1人だけ、ポツンと置いて行かれているような感覚でした」と振り返る野田さんですが、そんな日々を支えてくれたのは、4歳から習っていた、大好きなピアノの存在でした。

「私はみんなよりちょっとだけ、ピアノが上手に弾けたので、全校集会のような場では、いつも伴奏を頼まれていました。だから、『今日はピアノが弾けるからがんばろう』って、自分の気持ちを奮い立たせて、一生懸命学校に行っていたんです」

 周囲から理解されないまま成人した野田さんは、対人関係で不適応を起こし、ストレスが蓄積した結果、解離性障害を発症。憧れて進学した宮崎大学も中途退学を余儀なくされます。

 大学を辞めてからは、解離性障害のため入退院を繰り返し、ピアノから離れざるを得ない期間もありましたが、それでも、野田さんの「ピアノを弾きたい」という思いはやみませんでした。やがて宮崎学園短期大学音楽科の長期履修生となり、恩師となる田中幸子教授と出会い「あなたはあなたのままでいい」と励まされ、初めて自分の音楽を肯定された気持ちになったと言います。

 自身が発達障害だと知ったのは、2004年、22歳の時。留学先のオーストリア・ウィーンの病院で、自閉症スペクトラム障害(※当時の診断基準では、「広汎性発達障害」)と診断されたのです。

 発達障害は、先天的な脳の機能障害であり、本人の性格や「気の持ちよう」で改善できるものではありません。しかし、見た目では健常者となんら変らないため、周囲から「なまけている」「甘えだ」と誤解されることも多いと言います。

 野田さんは当時の心境をこう振り返ります。

「いつも『やればできるのに、なまけている。もっと頑張りなさい』と、自分の音楽も人格も否定され続けてきて、ずっと『こんなに頑張っているのに、なんで私だけできないんだろう?』と、自分を責めていました。だから、できないのは私のせいじゃない、障害のせいだったんだと知れて、ホッとしたんです。もっと早くから知っていれば、解離性障害のような二次障害は起こさなかったのに......」

 みんなに合わせるために必死に努力し続け、心が押し潰されそうな日々を送っていた野田さんは、障害を受け入れたことで自責の気持ちが減り、穏やかな心境になれたと言います。

 恩師や両親のサポートを得て、音楽活動を続けているという野田さんは、微笑みながらこうも語ります。

「今まで、両親をはじめ、周囲の人たちには悲しい思いばかりさせてしまった。だから、私のピアノを聴いて『ほっとする』と感じてもらえる、みなさんに喜んでもらえるのは、普通の人の100倍うれしいです!」

 野田さんにとって、お客さんから送られる拍手は、何物にも代えがたい喜びでした。たとえ言葉で人とコミュニケーションを取るのは難しくても、音楽を通じてなら、自分の思いを伝えられることが実感できたと言います。

 最後に、野田さんと同じ発達障害を持つ人々へ、こんなメッセージを寄せてくれました。

「今まで、私の前半生は、苦しい試練の連続でした。でも、大好きなピアノがあったから、なんとか乗り越えられたんです。だから、みなさんにも自分が大好きなことや、心から夢中になれるものを見つけてほしいと思います」

* * * * * *

【イベント情報】
「野田あすか ピアノ・リサイタル 〜ありのままで〜 」
日時:2017年3月18日(土) 開演 13:30 (開場 13:00)
会場:浜離宮朝日ホール


<プロフィール>
野田あすか(のだ・あすか)
1982年広島県生まれ。4歳の頃から音楽教室に通い始め、10歳からピアノの個人レッスンをスタート。自閉症スペクトラム障害(広汎性発達障害)、二次障害の解離性障害が原因で、自傷、パニック、右下肢不自由、左耳感音難聴を持つ。2006年、第12回宮日音楽コンクールでグランプリ、全日空ヨーロッパ賞をはじめ受賞歴多数。現在は、コンサートを中心に、音楽活動を続けている。2015年には、両親と共著で、初の著書『CDブック 発達障害のピアニストからの手紙 どうして、まわりとうまくいかないの?』(アスコム刊)を出版。

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