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主体性のある女の子の生き様に強く惹かれる――アノヒトの読書遍歴:山内マリコさん(後編)

自身もオリーブ少女だったという山内さん。山崎まどかさんの『オリーブ少女ライフ』を読むことで、「ティーンライフを追体験できる」と言います。

 2008年、短編「十六歳はセックスの齢」で第7回R-18文学賞・読者賞を受賞した小説家・山内マリコさん。富山県出身ということもあって、地方生まれの女性を主人公にした作品に定評があります。2012年には「十六歳はセックスの齢」を含む短編集『ここは退屈迎えに来て』でデビュー。地方生まれ、地方在住女子の閉塞感と希望を描き、今年5月に上梓した小説『かわいい結婚』でも、地方在住・無気力主婦の孤独をコミカルに描いています。

 前編に続き、山内さんに読書生活についてお話を伺いました。

――普段から多くの数の本を読むそうですが、何か好きなジャンルはありますか?
 基本的にはジャンル問わずなんでも本を読みますが、「女の子の生き様」というか、女の子が「自分らしさ」を求めて何かに夢中になるようなお話は、私の中で別ジャンルというかどこか特別感があります。昔から女性というのは、何かに夢中になると必ずある問題が出てくるんです。それが、「結婚」です。私がこのたび書いた小説『かわいい結婚』では、まさにその問題に直面した女性を描いています。

――同作では、「結婚」についてどのように表現しているのでしょうか。
「結婚」って、もちろんいい部分もいっぱいあるんですけど、おかしなこともたくさんあると思うんですよ。例えば、一緒に住み始めたら女性が家事をすることが当たり前になるとか......。既婚女性の中には「なんで男の人って家事しないの?」と純粋な疑問を抱く人も多いと思います。その疑問をそのまま作品にしたのがこの一冊です。昔とは違って近年の女性は、「結婚」について母親なり周りから教えられる機会ってかなり減ってきていると思うんですよ。教育の上では、男女平等なので。女の子はなんでもできる。女の子だって自立できる。そう教えられてきたのに、大人になって結婚してみると、よき妻よき母を求められる、旧態依然の現実に直面する。少女のころはあれほど自由だったのに。今回紹介する山崎まどかさんの『オリーブ少女ライフ』には、まだそんな現実を知る前の、とびきりきらきらした少女時代が描かれています。

――『オリーブ少女ライフ』はどんな作品なのでしょうか。
 タイトルにある『オリーブ』というのは、1980年代に創刊されたマガジンハウスの少女向け雑誌『オリーブ』のことです。当時は、10代の女性を中心にとても人気のある雑誌で、愛読者のことを『オリーブ少女』と呼んでいたんです。私は世代が違うせいもあってリアルタイムでは読んでいないのですが、著者の山崎まどかさんは、まさに直系の『オリーブ少女』。この雑誌を通じてさまざまな映画や音楽、小説などの影響を受けた様子を描いているんですが、この本はそんな彼女の少女時代の、メモワールになっています。

――特に印象深いシーンはありますか?
 この本では、雑誌『オリーブ』の特集に使われたコピーライトがそのまま章のタイトルなっています。その章ごとにその号にまつわる山崎さんの思い出や、当時買った服などの生活の様子が事細かに描かれているんですが、例えば、第1章のタイトルは「制服のない学校だから、おしゃれ」。山崎さんは実際に制服のない学校に通っていだそうで、私服をどうするかは大問題。実際に雑誌に紹介されたお店に買い物に出掛けたりもするのですが、その姿がとても生き生きしていて、なんだかうらやましくて。私は富山県出身なので、そういったお店が家の近くにないものですから(笑)。とにかく『オリーブ』という雑誌には強烈な魅力があって。その雑誌を読んでティーンライフを送っていた日々のさまざまなディテールを、この一冊を読むことで追体験できるんです。

――ありがとうございます。ほかにもおすすめの本があればご紹介ください。
 はい。ライターでイラストレーターの多屋澄礼さんの著書、『フィメール・コンプレックス(彼女が音楽を選んだ理由)』です。この本は、18人の外国人の女性ミュージシャンのライフストーリーから構成されています。一口に女性ミュージシャンといってもいろいろな方がいらっしゃると思いますが、この本で紹介されているのは、トレイシー・ソーンやキャシー・ラモーンなどといった、どちらかというとインディーズよりの方々。著者の多屋澄礼さん自身がDJをやっているので、音楽についてかなり詳しい人物。わたしもはじめて知るミュージシャンも多く、女子の音楽入門編にピッタリの一冊です。

――特に惹かれたシーンがあれば教えてください。
 いまも昔もですが、女の子が音楽で自己表現をするのってなかなかハードルの高いことだと思います。ギターを構える女の子ってカッコいいけど、多くの女の子は普通はギターを構える男の人に向かってキャーキャー言う方を選びますし。だからこの作品では、音楽性云々より、いかにして音楽に出会い、音楽で自己表現する方の道を選びとったかに、重点が置かれています。実際著者の多屋さんは、自分ではできなかったからこそ、音楽を"やる"方を選んだ彼女たちに、興味と敬意を持っている。ここに登場するのは、さまざまな制約があるといわれる女の子の世界で、自分なりのやり方で自分が納得できる生き方を模索している人たちです。でもそれは、音楽に限ったものでもない。この本で紹介されている女性ミュージシャンだけでなく、書き手の多屋さん自身もだし、「オリーブ少女ライフ」を送って自分自身を形作っていった山崎まどかさんや、安井かずみさんも、みんな同じです。私は、「なにか』をやりたいという気持ちを持った、主体性のある女の子の生き様みたいなものに強く惹かれますね。

<プロフィール>
山内マリコ 
 やまうちまりこ/1980年11月20日生まれ。小説家、エッセイスト。2008年、短編「十六歳はセックスの齢」で第7回R-18文学賞・読者賞を受賞。2012年に、初の著書『ここは退屈迎えに来て』で「地方生まれ・在住女子の閉塞感と希望」を描き、今年5月には、「地方在住・無気力主婦の孤独」をコミカルに描く小説『かわいい結婚』を上梓。

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