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中学生の頃は、表紙の可愛さに惹かれて本を選んでいた ――アノヒトの読書遍歴:山内マリコさん(前編)
富山県出身の小説家・山内マリコさん。大学卒業後に京都でライター活動をスタートさせ、2008年、27歳の時に、短編『十六歳はセックスの齢』で第7回R-18文学賞・読者賞を受賞。今年5月には、「地方在住・無気力主婦の孤独」をコミカルに描く小説『かわいい結婚』を上梓しました。
かなりの本好きだという山内さん。空き時間があればすぐさま本屋に立ち寄り、自分が読みたい本を探すんだそうです。そんな山内さんに日頃の読書生活についてお話を伺いました。
――本はいつ頃から読むようになりましたか?
ちゃんと本を読むようになったのは中学生になってからなんです。小学生の頃は漫画しか読んでなくて。室山まゆみさんの『あさりちゃん』や、高学年になると吉住渉さんの『ハンサムな彼女』とかですね。『りぼん』派だったので、矢沢あいさんの作品も読んでました。そのあと、中学校に上がってから漫画だけじゃ飽き足らなくなって、活字に手をのばすようになりました。
――当時の本を選ぶ基準というのを教えてください。
最初のうちはどう選べばいいかわからなくて、表紙の可愛さとかに惹かれて本を選んでました(笑)。例えば、吉本ばななさんの作品。『アムリタ』という小説が、たしかジャケ買い第一号だったような。あとはとりあえず、手当たり次第という感じですね。大学の頃は村上春樹さんにハマッて、20代になると海外モノに目覚めて海外小説を手にするようになりました。昔から私は、どんな本を読むかというよりも、そもそも本を読むこと自体がかっこいいなって思って読書をしていたところはあります(笑)
――多く本を読まれている中で、印象に残っている作品は?
最近でいうと、島崎今日子さんの『安井かずみがいた時代』ですね。安井かずみさんという方は、小柳ルミ子さんの『わたしの城下町』や沢田研二さんの『危険なふたり』などの作詞家として、また結婚後はエッセイストとして、ヒップな若者の代表といった存在だったらしいのですが、わたしが彼女を知ったときは、すでに他界された後のことでした。この本は、ムッシュかまやつさんや吉田拓郎さんなど、生前彼女と仲良くしていた方や周りにいらっしゃった方々の、いわば『証言集』になっていて。さまざまな角度から安井かずみさんについて描かれています
――特にどんなところが印象的でしたか?
証言者によって安井かずみさんの見え方がかなり違っていて。それもおもしろいところなんですが、時代が変わるとまたさらに違う彼女の顔が見えてくるところがとてもおもしろいです。安井さんは、1977年にミュージシャンの加藤和彦さんと結婚するのですが、その前後でキャラクターが......というよりもセンスがかなり変わってきます。私はどちらの安井さんも素敵だなって思いますが、作中では賛否両論。例えば、70年代に仲良かった人からすると、「なんか変わっちゃったね」と残念がってしまう人がいたり。一方で、80年代に仲良くなった人からすると、想像していた彼女と違った一面を見たりして賞賛する人もいます。人って変わるものだけど、それによって軋轢みたいなものも生じますよね。だけどそれを恐れずに、そのときどきの自分に正直に、自分のやりたいように生きた。時代が進むにつれて安井さんがどんどん進化していく様子がわかるのが、この本の魅力だと思います。
――本書では、安井さんのいろいろなエピソードが披露されていますが、中でも山内さんが心に残っているエピソードがあれば教えてください。
文庫版には、新たに小説家の山田詠美さんの解説があるのですが、そこでは森瑤子さんから聞いたエピソードが紹介されています。安井さんは、早朝にもかかわらず庭で白いシックなワンピースを着て華奢なカップとソーサーを手にお茶を飲んでいたそうなんです。それも取材とかではなくたったひとりで。さすが安井かずみというか、彼女がいかに美意識を張り巡らせていたせいかが、伝わってきます。彼女はもう亡くなられていますが、この本を読むと、まるで今も生きているかのような感じがするんです。そういう意味では、この本が出たことによって安井さんは蘇ったんだと思います。安井さんは今も、それぞれの中で生きている――それを実感できる、とても良い本だなと思いました。
後編では、山内マリコさんが影響を受けた本について紹介します。お楽しみに。
<プロフィール>
山内マリコ
やまうちまりこ/1980年11月20日生まれ。小説家、エッセイスト。2008年、短編「十六歳はセックスの齢」で第7回R-18文学賞・読者賞受賞。2012年に、初の著書『ここは退屈迎えに来て』で「地方生まれ・在住女子の閉塞感と希望」を描き、今年5月には、「地方在住・無気力主婦の孤独」をコミカルに描く小説『かわいい結婚』を上梓。