「スタメンは選手が決める」 ボトムアップで日本一を目指すサッカー部

それでも「美談」になる高校サッカーの非常識
『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』
加部究
カンゼン
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決勝戦が聖地・国立競技場で行われる最後の大会となった、第92回全国高校サッカー選手権大会。12月30日に開幕した同大会で、とある指導方法を実践するチームが出場を果たします。

それが、本日1月2日に修徳(東京A)との初戦を迎える滋賀県代表の綾羽高校です。

綾羽が実践するのは、畑喜美夫氏が打ち出した「ボトムアップ理論」(書籍『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』より)。現在は、広島県立安芸南高校に勤務する畑監督が、広島観音時代に土台を作ったこの理論は、これまでの高校サッカー界の常識を覆すものとなっています。

選手の主体性を引き出すために行なったボトムアップ理論は、監督がすべての決断を下す従来のトップダウン型ではなく、メンバー選考から戦術までの全てを選手に託すというもの。全体練習を週3回にとどめ、練習の質にもこだわりました。オフの過ごし方も、選手の自主性に委ねられています。

周囲は懐疑的だったボトムアップ理論でしたが、意外にも早々に結果が出ます。広島観音高校への就任2年目で、広島県大会ベスト4入り。中国大会で3位といった好成績を残しました。その後も順調で、2003年には高円宮杯全日本ユース選手権にも出場。2006年には、ついにインターハイを制覇しました。 

「僕はベンチでコーヒーを飲んでいたら勝っちゃった」とは畑監督の弁。選手に全てを任せる分、主体性などの「人間力」が問われるのが畑監督のサッカーです。

「サッカーをするにも、まずは人間力という土台が要る。ケーキならスポンジの部分ですよね。そこがしっかりすれば、ゲームもしっかりしてくるんです。ボールを奪われたら追いかける。みんなで協力する。相手をリスペクトする」(畑監督)

しかし、チームの重要な決定事項を選手に任せていると、選手同士でのいじめや諍いが多くなりそうです。しかし、畑監督はきちんと防止策も練っています。

メンバー選考の優先順位は、(1)社会性 (2)賢さ (3)上手さ (4)強さ (5)速さ。つまり、どれだけサッカーが上手い選手でも、学校や私生活の態度が悪ければ、試合に出ることができません。

「もしかしたら強豪校では、有り得ないルールかもしれませんね。でも結局学校生活や練習でキチンとやっていない子が試合に出ると、不満が出てくるものです。人として素晴らしい子が試合に出る。裏返せば、試合に出るためには、規律も守り、勉強も頑張らなければならない。そうなってから結果も出始めました」(畑監督)

残念ながら今回の全国大会には、広島観音高校や安芸南高校は出場しませんが、同校に大きな影響を受け、ボトムアップ方式に取り組む高校が、全国の舞台に挑みます。それが、セクシーフットボールで一世風靡した野洲高校を決勝で破り、初の全国大会出場を果たした綾羽高校です。

観音高校と同様に、練習からメンバー選考までを選手が話し合って決めています。全国の指導者が注目している「ボトムアップ方式」が、全国の舞台でどのような成績を残すのか。この指導法が正しいのかを確かめる絶好の機会となります。

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