映画『風立ちぬ』で宮崎駿監督が考えていた"もうひとつ"のエンディング

風に吹かれて
『風に吹かれて』
鈴木 敏夫
中央公論新社
1,944円(税込)
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 人気作がひしめく夏の映画興行。8月第4週目の興行が終わった現在、スタジオジブリの最新作『風立ちぬ』が6週連続で1位を獲得しました。公開37日間で累計動員640万人、累計興収80億円を突破しています。また、26日(月)にはNHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」にて宮崎駿監督への密着ドキュメンタリーが放映され、様々な反響がありました。
 
 スタジオジブリのプロデューサーとして、宮崎駿監督と30年以上の付き合いがある鈴木敏夫さん。本書は鈴木氏が宮崎駿・高畑勲両監督と出会い、スタジオジブリで映画を制作してきた過去を振り返った本です。たとえば、『魔女の宅急便』はクロネコヤマトからの企画で始まった、そこからスタジオジブリはどのように作品を制作したか、というような珠玉のエピソードが、惜しげも無く語られています。

 本書は現在公開中の『風立ちぬ』にも多く言及しており、驚きの事実が書かれています。それは、元々、「風立ちぬ」のエンディングは、現在公開されているものとは違った、というものです。

 以下の引用は、ネタバレの要素もありますので、映画をご覧になったあと、お読みいただくことをお奨めします。

「宮さんの考えた『風立ちぬ』の最後って違っていたんですよ。三人とも死んでいるんです。それで最後に『生きて』っていうでしょう。あれ、最初は『来て』だったんです。これ、悩んだんですよ。つまりカプローニと二郎は死んでいて煉獄にいるんですよ。そうすると、その『来て』で行こうとする。そのときにカプローニが、『おいしいワインがあるんだ。それを飲んでから行け』って。そういうラストだったんですよ。それを今のかたちに変えるんですね。さて、どっちがよかったんですかね」

「だけど三人とも死んでいて、それで、『来て』といって、そっちのほうへ行く前に、ワインを飲んでおこうかっていうラストをもしやっていたら、それ、誰も描いたことがないもので。(~略~)だから、最初の宮さんが考えたラストをやっていたら、どう思われたんだろうかと」

 宮崎氏が構想していたエンディングとは、つまり、主人公の堀越二郎、妻の菜穂子、そして二郎の人生に多大な影響を与えるイタリアの飛行機設計家・カプローニ氏が、既に「死んでいる」という衝撃的なものだったというのです。

 鈴木敏夫さんは公開された今も、エンディングを変えたことに悩んでいるようです。果たして、どちらのほうが良かったのでしょうか。是非もう一度映画館へ行って、確かめてみてください。

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