モチーフは『地獄の黙示録』 日本から切り離された国が舞台の『夜の底は柔らかな幻』

夜の底は柔らかな幻 上
『夜の底は柔らかな幻 上』
恩田 陸
文藝春秋
1,728円(税込)
商品を購入する
>> Amazon.co.jp
>> HonyaClub.com
>> エルパカBOOKS

「フランシス・フォード・コッポラの『地獄の黙示録』をやろう」との考えから、執筆が始まった恩田陸さんの『夜の底は柔らかな幻 上・下』。連載開始からおよそ6年半をかけて完結した同作は、恩田ワールド全開の大作です。

 映画「地獄の黙示録」は、ご存知の通り、ベトナム戦争を舞台とした映画。主人公の陸軍空挺士官・ウィラード大尉が、軍上層部の命令により、元グリーンベレー隊長のカーツ大佐を暗殺するというものです。カーツは軍の命令を無視して暴走し、カンボジアのジャングル奥地に独立王国を築いていました。混乱の中、ウィラードは限界状況に陥り、次第に自分自身を失っていくのです。

 そんな「地獄の黙示録」の原作といえば、ジョセフ・コンラッドの『闇の奥』。こちらも、西洋植民地主義の暗い世界がテーマ。舞台はアフリカの奥地。タイトルの『闇の奥』は舞台に通ずるものがあり、また、人間が持つ暗黒面についても描いています。

 「地獄の黙示録」『闇の奥』がその下敷きにあるとされる、恩田さんの『夜の底は柔らかな幻 上・下』。物語の中心は女性捜査官の実邦ですが、彼女が追いかけるのは、多くのテロ事件を起こした犯罪者たち。そして、彼女は殺戮の世界を目の当たりにすることになるのです。

 日本から切り離され、犯罪者や暗殺者たちが逃げ込んだ無法地帯である「途鎖国」。特殊能力「イロ」を持つ「在色者」たちが、この途鎖国の山に先祖を弔うために入るとき、「創造と破壊」、そして「歓喜と惨劇」の幕が開けるのです。

 5回目のノミネートにも関わらず、直木賞受賞を逃した本作。「極悪人たちの狂乱の宴、壮大なダーク・ファンタジー」との紹介に違わず、一度読み始めるとぐいぐいと引き込まれる作品です。

« 前のページ | 次のページ »

BOOK STANDプレミアム