新製品がヒットする確率は、不調な野球選手の打率より低い

ヒットの経営学
『ヒットの経営学』
日本経済新聞出版社
1,512円(税込)
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 1割8分台──。


 この数字は野球選手の打率ではありません。これは大手メーカーの直近の「ヒット率」(過去2年以内に発売した新製品のうち計画以上に売れた比率)で、日経産業地域研究所が2009年に発表しました。

 「1割8分」は、日本球界に復帰した岩村明憲選手が、2010年に米大リーグのパイレーツから打撃不振で戦力外通知を受けた時の打率と同じ。ちなみに、2007年の調査では、「ヒット率」は2割6分あり、これは、カブス時代の福留孝介選手並みでした。さらに、2005年は3割1分とイチロー選手並みに成績を残していました。

 つまり、ここ数年で企業は「ヒット商品」を生み出せなくなってしまったのです。


 では、ヒットした製品は何が違うのでしょうか。

 開発や組織のあり方など、成功事例を分析した書籍『ヒットの経済学』のなかで、ロッテアイスの「ザクリッチ」が紹介されています。2010年3月下旬に発売された「ザクリッチ」は、メガホンを押しつぶしたようなユニークな形をした、厚い紙製パッケージが特徴のコーン型アイスクリーム。

 「アイスクリームを作るという発想からスタートしていない」
 こう話すのは、ロッテアイス商品開発担当部長の海老原真一氏。
 
 ザクリッチで目指したのは、「無意識のうちに手が伸びるような生活に溶け込んだ食べ物にすること」(海老原氏)。つまり、アイスだけでなく「スナック菓子や菓子パン」もライバルとして考えたのです。一緒に並ぶアイスのショーケースの中には、消費者の認知度の高いロングセラーがあります。その商品に勝るためには、「思い切ってケースの枠を飛び越え、競う市場を広げる」といった"発想の転換"が必要だったのです。

 ザクリッチは、手に持ちやすく握っても冷たくならないよう配慮し、コーンの内側をパフ入りのチョコレートでコーティング。どこを食べてもザクザクした食感で食べ応えのある味に仕上げました。
 
 おやつや食後のデザートとしても楽しめるザクリッチ。このザクリッチのコンセプトを固め、発売にこぎつけるまでには、2年の月日がかかったそうです。これは単品では希なケース。そんな苦悩の末に発売されたザクリッチは、当初の2週間で売り上げが6~7億と一気に跳ね上がり、供給が追い付かず、出荷を一時停止するほど人気を集めました。

 ロッテアイスが関東・関西の5000人に調査すると、購入時間に明確な特徴が出ました。「午前1時・正午・午後3時・午後7時」に購入する人が多いのです。こうした突出した山は、通常のアイスクリームでは見られず、時間帯から推定すると「食品全般と一緒に購入されている傾向がうかがえる」と、商品開発担当の野津健次郎氏は分析します。

 「ヒット率」低調の時代に必要とされるものは、このような思い切った「発想の転換」なのかもしれません。

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