もやもやレビュー

『何者』SNS隆盛による就活の地獄化に震える

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 朝井リョウ原作である本作は大学生の就職活動を軸とした内容だ。無事、就職をした人間も内定が取れず図らずもノージョブ生活を満喫している人間も「就活」と聞けば大半は思い出したくない記憶ではないだろうか。

 企業説明会にOBOG訪問、自己分析や無駄に膨大な量のエントリーシート、グループディスカッション等々、特に文系の学生であれば思い出すだけでガソリンを浴びて焼身自殺か首の一つでも括りたくなる。おまけに、苦労して入社したところで過去のこうした経験はゴミほど役に立たないときている。もっとも就職活動で偽った精力的でリーダーシップにあふれた優秀な人間ばかりなら、今日のように大企業が巨額の粉飾決算で倒産に瀕したり、外資に身売りしたりするという惨事は生じないので、就活は茶番以下なのだろう。

 ちなみに、某宮廷大学の工学部だった筆者の友人は、出来が悪くて院に行けない人間向けに、学部のゼミの教授がくじ引きを作成し適当に大手企業へ内定させていたという。当時は2004年で株価が8千円台という時代だったにも関わらず。
 こんな塩梅なので、内定を取れない青臭い学生でなくても「就職活動って、何の意味があったのだろう?」という疑問は、社会人になった今でも考える。

 本作は、就職活動を通じて登場人物5人の心の闇が浮き彫りになるという形式になっている。内容は内定を得た「裏切者」が出たことで各人の心情が浮き彫りになるという話。
 そういう方面から論じた映画評や個人ブログは星の数ほどあるので、本作の詳細な分析を読みたいという御仁は、そういった文章をお勧めします。本記のテーマはあくまで就職活動です。大体、手前の稼ぎでメシが食えるかどうかの瀬戸際では、どんな能天気な人間であっても心の暗い部分が出るだろう。そんなもん、当たり前じゃねぇか。

 とは言え、仮にも映画レビューなので「就職活動から見える人間性が出て怖いですね」と片付ける訳にもいかず、渋々本作について記していく。

 筆者の就職活動をしていた時は俗に「就職氷河期」と呼ばれるものだったが、SNSなんてロクでもないツールがなかったおかげで友人知人が内定を獲得しても嫉妬に駆られたり自己嫌悪に陥ったりすることはなかった。活動が始まれば大学へ行く機会などほぼなく、誰がどの会社に内定が決まったという話をほぼ耳にしないからだ。たとえ聞いたとしても、お互い細かいことは話さない暗黙のルールがあった。
 ところが今はSNS全盛の時代。内定を得ていない状態で友人知人の「〇〇社に内定決まりました!」なんて書き込みを毎日読まされたらまともに精神を保てないだろう。会社が大企業であればあるほど妬み嫉みは強烈になると想像できる。また、就活時期に一定の人間が発症する間違った方向の「意識高い系」も出現するしネットは地獄の様相を呈する。
 一方で本作にも登場する、就職活動を周囲に知られないよう裏アカウントを作成し投稿する輩もいない訳ではない。三島由紀夫はエッセーの中で「大学とは精神病院のようなもの」と、今日だとポリティカルコレクトネスに抵触して炎上必至な文章を記しているが、登場人物たちの言動を眺める限り確かに皆さん頭がどうにかしている。
 ならば、そのようなものを一切遮断して黙々と就職活動に励めばいいのだろうが今日のようにSNS必須の時代であれば人間関係を断ち切ることとほぼ同義だ。

 最近は就職氷河期と打って変わりバブル時代並みの超売り手市場だという。内定を得た喜びやマウンティングのためにせっせとSNSに投稿する人間の数は決して少なくない。そのような現実を見ると、本作は就職活動に励む学生にとって地獄のような映画だろうなぁと、現代の就職活動する学生たちに同情を覚える。いくら就活が茶番で、入社後に働く方がはるかに辛いとしても。

(文/畑中雄也)

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