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大人だって行ってみたい『「かいじゅうたち」の世界へ』

「かいじゅうたち」の世界へ―モーリス・センダック (名作を生んだ作家の伝記)
『「かいじゅうたち」の世界へ―モーリス・センダック (名作を生んだ作家の伝記)』
ハル マルコヴィッツ
文溪堂
1,728円(税込)
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世界でもっとも有名な絵本の一冊である『かいじゅうたちのいるところ』は、いたずらがすぎて母親に怒られたマックスが、かいじゅうの世界へ行き戻ってくるという、空想と現実が入り混じったストーリーである。2009年にスパイク・ジョーンズが同タイトルで映画化したため、再注目された。懐かしさを覚え、久しぶりに手に取ったという人も多いだろう。わたしの愚息もこの絵本が大好きなため、空で台詞が読めるほど繰り返し読み聞かせている。

作者モーリス・センダックは苦労の人だ。1929年、ブルックリン生まれ。ポーランドから移り住んだユダヤ人の両親との貧しい暮らしの中、絵を描くことに人生の意義を見出し、お店のディスプレイの仕事をしながら、児童文学の挿絵の世界に入る。しかし、ベストセラーを生み出す人気絵本作家となっても、多くの批判と闘い続けることになった。

『かいじゅうたちのいるところ』が発表されるやいなや、批評家やマスコミは総攻撃。心をかき乱すもので、幼い子どもには理解のできない世界だと主張した。それに対してモーリスは「子どもだって激しい怒りの感情を抱いていて、空想の世界に逃げ込むことで対処している」と反論した。実際、モーリスの絵本に対して苦情をつけるのは、決まって批評家や教師、図書館員たちで、世界中の子供たちがそれに夢中になったのだった。

『「かいじゅうたち」の世界へ』は、作家の伝記シリーズの一冊として刊行されたもので、モーリスの生い立ちはもちろん、本を出すたびに巻き起こる論争とそれに対する彼の想いが詰まった一冊だ。「わたしたち大人が忘れてしまったやり方で、子どもたちは空想と現実の世界を行き来している」と彼は語る。確かに、子どもたちの世界がパステルカラーで可愛らしいものだなんて、いったい誰が決めたのだろう。幼い時にかんじる孤独や恐怖、寂しさなんかを、包んで隠すのではなく、真正面から描いたものが多かったモーリスの世界観は、親になった今読み返すと、より興味深く感じる。理解を深めるために、絵本、そして映画を見終わった後に読むことをおすすめしたい。

(文/峰典子)

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