選挙参謀のオバちゃんがWWEの女ボスのごときハッチャケ振りの『アイアン・スカイ』
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2012年に公開された『アイアン・スカイ』は、ナチ残党が月の裏側で生き残っていた!という「歴史if」モノ。製作費の一部をカンパで集めたこともあってか、珍作愛好家を刺激する中途半端に頑張ってる画作りが特徴。アメリカ大統領選挙戦や宇宙開発の軍事利用の比喩を軸に、欧州視点(監督がフィンランド人)の皮肉が効いたブラック・コメディSFに仕上がっています。
時は今よりやや近未来。月の裏側に逃れ、1945年当時の歴史観と生活様式のまま密かに生き延び、地球侵略計画を温めていたナチ残党「第四帝国」の皆さん。だが、切り札である宇宙戦艦「神々の黄昏号」を起動することが出来ず計画は頓挫中。
そんな折、アメリカ大統領の再選キャンペーンタレントとして月の裏側に送り込まれた黒人ジェームズ・ワシントンを捕縛。彼の持っていたスマートフォンで「神々の黄昏号」を起動させられることが判明するも、数秒で電池切れに。
ある野望を抱く親衛隊将校クラウスは、新たなスマホを手に入れるべく、ジェームズと共に地球に潜り込むことを偉い人に進言。さらにクラウスの婚約者レナーテも地球学者としての興味から密航し......てな内容。
約70年前のナチの価値観が染み付いた言動のクラウスやレナーテなど主要キャラがとにかく濃い本作。そんななか黒人のジェームズは、白人(アーリア人)至上主義の犠牲となり、謎のお注射で"人工白人"にされてしまうというブラック(いやホワイト?)なネタも。
プロレスでは国籍を偽るなんて日常茶飯事ですが、本作に似たパターンとしては、ヒスパニック系のチャボ・ゲレロ(Jr)が地毛の黒髪を金髪に染め、演じた白人至上主義者「カーウィン・ホワイト」を思い出します。
白人文化の象徴として、小金持ちのニワカゴルファーをモチーフに、ゴルフカートで入場したり、凶器にゴルフクラブを使うというヒールギミックでした。
しかし本作において"人工白人"より濃厚キャラなのが肉食系熟女の選挙参謀ヴィヴィアン。
序盤で選挙スタッフたちにヴィヴィアンがブチ切れるシーンは、『ヒトラー ~最期の12日間~』の"総統閣下"シーンそのまんま。中盤以降もクラウスに色仕掛けしたかと思えば、裏切られるや地球軍艦隊司令になって報復に躍起になるなど、七面六臂の暴れっぷり!
WWEで創業家一族として裏方を取り仕切る一方、WWE番組の中で試合をやったり、謎の臭い液体に突っ込んだりと身体を張る女ボス・ステファニーの豪傑振りが重なる強烈なキャラクターになっています。
そんなこんなでキャラに目が行きがちの本作ですが、どこかで観たことのあるシーン(SF映画ネタだけでなく時事ネタも)から昨今の世界情勢の笑えない現実を皮肉るオチなど、B級映画と侮れない作品として一見の価値アリです。
(文/シングウヤスアキ)