最底辺ジョバーとして雇ったらトップベビーフェイスに大出世しちゃった的主人公の『デリカテッセン』
- 『デリカテッセン [DVD]』
- ジェネオン・ユニバーサル
- 1,543円(税込)
- >> Amazon.co.jp
テリー・ギリアムといえば『未来世紀ブラジル』(※)や『12モンキーズ』など、独特の映像美と不可思議な世界観の作風で知られますが、"フランスのテリー・ギリアム"と揶揄されたのが、ジャン=ピエール・ジュネとマルク・キャロ。
特にこのコンビの名を知らしめたとされる作品が、セザール賞(フランスのアカデミー賞)の新人賞&脚本賞を獲得した『デリカテッセン』(1991)です。
近未来の核戦争後、荒れ果てたパリの郊外にある精肉店兼アパート「デリカテッセン」。食料供給のままならない中、この店の新鮮なお肉はどこから仕入れているのかといえば、それは新入りの住人!というのが本作の掴みの部分。
街の荒廃ぶりに反して、50~60年代風を思わせる衣装やセットにBGMなど、どこかのどかな印象を受ける一方、カニバリズムという重いテーマと淀んだトーンの映像が悪趣味なホラーを思わせます。
が、そんな二面性に混ぜ込まれたのが、毒気を含んだシュールなフレンチギャグ。ベッドのスプリングの軋む音にちなんだ下世話なネタや、度々ピタゴラスイッチな方法で自殺を図ろうとする出っ歯のマダムなどなど、要は不条理SFコメディなのです。
ストーリー的に動くのは中盤から。店主の娘ジュリーが、新たな"お肉候補"としてアパートにやってきた新参者ルイゾンにフォーリンラブ。ルイゾンがお肉になる前に誘拐して欲しいと、ある地下組織に取引を持ち掛けます。
そして拉致作戦決行当日、店主軍団もルイゾンお肉作戦を開始したことで「デリカテッセン」は大混乱となり、フレンチギャグもベタだなオイ、みたいなクライマックスへ。
プロレスでいえば"お肉候補"のルイゾンはジョバー(負け役)、それもスカッシュ・マッチ(売れ線選手のための一方的な試合)要員。名前すら呼ばれない可能性もある最底辺です。
しかし、ルイゾンはクレイジーな店主とその配下となる性悪な住人に追い詰められながらも、ジュリーと地下組織の助けと自らの機転で"耐えて勝つベビーフェイス"になっていきます(決まり手的にはタナボタ勝利だけど)。プロレス界だったら奇跡の大出世ですよ!
ちなみにルイゾンと地下組織は「菜食主義者」で、店主と住人たちは「肉食主義者」という色分けになっており、そのまんま前者をベビーフェイス、後者をヒールと置き換えることが出来ます。
ついでにいえば、出っ歯マダムはピタゴラ自殺が連続で未遂に終わる点からして出落ち系のジョバーでしょう。最終的にまさかのタイミングで成功しちゃうところがまさにジョバー!
(文/シングウヤスアキ)
※『未来世紀ブラジル』の製作費を稼ぐために急逝制作されたとされるのが『バンデットQ』でしたが、本作『デリカテッセン』も資金不足で制作が難航していた『ロスト・チルドレン』の繋ぎとして制作されたそうな。この辺りもギリアムとの共通性といえそうです。