ヒールとしてやりたいようにやってたらベビーフェイスになってたオースチン的問題作『タクシードライバー』
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プロレス界では90年代のWWEブームの折り、ヒールの在り方が変貌しました。悪の限りを尽くすヒールのボスを絶対権力を持つ"悪の会長"マクマホン氏が務め、その権力に群がるヒール勢がベビーフェイス勢をいじめる形。要は"サラリーマン・ヒール"が一般化したのです。世知辛いですね。
しかし、昔ながらの独立志向の強いヒールも活躍しており、悪事を働けば盛大にブーイングを浴びる一方で、パッとしないベビーフェイス選手よりも芯のある存在感からか、大歓声が起こる逆転現象的なケースもありを受けるます。
そこで今回は、ロバート・デ・ニーロ主演、マーティン・スコセッシ監督の名コンビによる問題作『タクシードライバー』(1976)がお題です。
40~70年代における反体制的作品群「アメリカン・ニューシネマ」最後の代表作にして、カンヌ国際映画祭大賞など数多くの賞を勝ち取った名作、だそうです。
ざっくりいうと、不眠症で自意識過剰なベトナム帰還兵のタクシードライバー、トラビス青年のロンリー・レヴォリューション!
退廃する世の中、ノーセンキューと気取りつつ、一目惚れした美女に近づくために、美女が働く大統領選候補事務所の運動員になるなど欲望に忠実なトラビス。デートにまでこぎつけるも、いつもの習慣でポルノ映画館に連れて行ってしまい、美女から絶縁宣言ハイ出ました。
この辺りから不眠症が悪化。「セックス、ドラッグ、ロッケンロール」な若者文化に馴染めない違和感と、政治への不信、ままならない自分の人生に抗うべく、こんな腐った世の中浄化してやるぅぅぅ!
......といった感じで、裏ルートで銃をゲットし、七三分けからモヒカンに刈り上げ、身も心もマッチョな男に転身。こうしてヒールと紙一重のピュア過ぎる正義感は暴走を遂げますが、トラビス本人の思惑とは裏腹な展開に至り、何とも言えない後味の結末を迎えます。
プロレス界でも、かの"ストーンコールド"スティーブ・オースチンが初期はサラサラブロンドヘアーのナルシスヒールだったのに、スキンヘッドの唯我独尊系ヒールに転身して大ブレイクしました。
作中でトラビスが辿る顛末とは厳密には違うのだけども、本人はヒールとしてやりたいようにやっただけだったのに人気者になってしまったオースチンのイメージと重なるところ。
また、本作の最も印象的なシーンとして知られるのが、トラビスが"浄化作戦"の予行演習として、鏡の前で銃を繰り返し構えながら独りごちる名シーン。この中での「俺に用があんのか?(You talkin' to me? )」という台詞は、ハリウッド映画名台詞100選に選ばれるインパクトを残したそうな。
実はこの名シーン、WWEの『レッスルマニア21(※)』プロモ映像でパロディ化されており、知る人ぞ知るネタとしてプロレス界にも足跡を残しています。
(文/シングウヤスアキ)
※『レッスルマニア』は毎年春先に開催されているWWE年間最大のイベント。パロディ映像は2005年に製作されています。