犠牲者の死に様がジョバー選手のヤラレっぷりと重なる『タッカーとデイル 史上最悪にツイてないヤツら』
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ホラー映画は大なり小なり登場人物らの犠牲が不可欠ですが、プロレスでいうなら「エリミネーション・マッチ(敗者脱落戦)」のようなもの。今回のお題『タッカーとデイル 史上最悪にツイてないヤツら』(2011)は、犠牲者の脱落感がエリミ戦におけるジョバー(ヤラレ)レスラーのそれっぽいホラーコメディです。
森林地帯にキャンプしに来た大学生たちがそこで出会った、気味の悪い田舎者コンビの異常な行動に巻き込まれた挙句、過去の陰惨な事件も絡んでまさかの展開へ!
・・・などと書き出しましたが、タイトル通り、主人公は田舎者コンビのタッカーとデイルの方。学生たちが(ホラー映画のテンプレに沿って)小さな勘違いを重ねたせいで、怪しい田舎者=殺人者・異常者とされてしまった彼らですが、単に「レッドネック」「ホワイト・トラッシュ」といわれるプアーで粗暴な白人労働階級者というだけで、根はあくまで善良。
ちなみに「ホワイト・トラッシュ」自体は一般的にならず者のイメージもあるため、米プロレス界でも荒くれ者ギミックとして定番で、故ディック・マードックやダスティ・ローデスなどの数々の南部出身のレジェンドを始め、現在のWWEでも下部組織NXT所属のスコット・ドーソンが活動中です。
で、美人女子大生アリソンが湖に転落。主役コンビは助けただけなのに、学生たちはアリソンが捕われたと大騒ぎ。勝手に追い詰められた学生たちが報復に動き出した辺りから「ジョバータイム」が始まります。
主役コンビは、貯金して買ったボロ小屋の別荘(見た目からして『死霊のはらわた』のパロディ)を訪れ、修繕のために様々な木工機材を持ち込んでいたのですが、勘違いした学生らから見ればもはやそれは殺人アイテム。
タッカーが丸太を切ろうとチェンソーを回すも、刃の遠心力の勢いに身体が持っていかれて走り出した際(そこまで勢いねぇだろとツッコんじゃダメ)、学生は自分たちを追って来たと勘違い。逃げ遅れた男子学生は前方不注意で樹の枝に自ら突っ込んで串刺しに。
そんな感じで主役コンビの行動を勘違いした学生たちがホラー映画でありそうなシチュエーションで次々と自爆! 事件を聞きつけた警官も自爆!
そのヤラレっぷりは、エリミネーション・マッチに数合わせで参加しているような中堅選手が「ヤラレ際こそ見せ場」と張り切る姿に重なり、哀れでありながら喝采を送りたくなるジョバーな末路です。
後半からは登場人物の立ち位置の変化により、前半のホラー映画テンプレを逆手に取った作風から正統派ホラーに転換するので、最後まで徹底して勘違い路線を維持して欲しかった気もしますが、ホラー映画のあるあるネタや軽妙な残虐シーンなどホラーコメディ(パロディ)としては素直に楽しめる佳作となっております。
(文/シングウヤスアキ)