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プロレス×映画

凡試合を無理矢理盛り上げようとしたような駄作感が救い難い『ローラーボール』

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 2000年代の失敗作トップ10に数えられるリメイク版『ローラーボール』(2002)。観て納得のその駄作感をプロレス視点で探ってみましょう。

 まずあらすじですが、「ローラーボール」と呼ばれる賭けスポーツを運営する謎の富豪オーナー(ジャン・レノ)が、全米進出の足掛かりを作るため、視聴率優先の"危険な演出"を指示し、その事実を知る人間を抹殺。裏事情を知ってしまったピュアな主人公ジョナサンがその闇に挑む、的な内容。

 今時、胡散臭い富豪が運営する賭けスポーツというだけで"仕込み"有りきと想像出来そうなもんですが、アメリカから特別待遇で招かれた主人公は「何かがおかしい」とピュア反応。もしこんな世間知らずなピュア主人公が脚本有りきのWWEに入団したらノイローゼになりそうです。

 そして、WWEよろしく会場外に居並ぶ中継車から中央アジア各国にTV中継され、国によっては経済に大きな影響を与える(実質的に国を支配する)ほどの賭けスポーツとして人気を博す、という設定の「ローラーボール」ですが、肝心の競技シーンがまあ酷い。

 「ローラーボール」はローラースケーターによるハンドボール的な競技で、ジャンプ台もあるリンクを舞台に、スケート選手数名とバイク担当選手(味方の牽引や敵を妨害)による構成の2チームで1つのボールを奪い合い、ゴールとなる銅鑼に当てたポイント数を競い合うもの。

 しかし、作中でルールを説明するようなシーンが無いためイマイチ分かりづらく、ボールの取り合いシーンもほとんど無いので競技としての面白みは一切掴めず。尚且つ、流し練習でもしてんのかというくらい低速なので迫力は皆無。

 そんな状態で"仕込み演出"が発動するため、プロレスでいったら万年中堅選手同士のぬるま湯然とした前座試合を強引に盛り上げようとして、唐突に流血を仕込んだようなやっつけ感に気が滅入ります。

 幹部からの試合中止要請に応じない悪徳オーナーに主人公も引かずクライマックスへと向かいますが、とにかく終始スピード感が無いので苦笑いの連続。決着シーンに至っては何故か延々スローモーションという間延び感で、ジャン・レノってこんなショッパイ俳優だったっけとガッカリ至極。

 やたら大量に出て来る高級スポーツカーや前衛的な選手コスチュームなどに製作費を無駄に使ったことだけはしっかり感じ取れますが、本作の監督が名作と名高い『ダイ・ハード』1作目を手がけた人物だと知って二重の意味でショックを受けた筆者でした。

 ちなみに本作には、「ローラーボール」同様に流血上等のハードコアマッチを売りにしていた「ECW」の元代表者兼実況担当だったポール・ヘイマンが英語実況アナ役に抜擢されているほか、ちょい役の米メディア幹部役としてWWE創業家の子息"シェイン・O・マック"ことシェイン・マクマホンが数シーンに登場。なかなかレアな2人なので、プロレスファンは(時間を無駄にする覚悟で)チェックしてみても良いかもしれません。

(文/シングウヤスアキ)

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シングウヤスアキ

会長本人が試合までしちゃうという、本気でバカをやるWWEに魅せられて早十数年。現在「J SPORTS WWE NAVI」ブログ記事を担当中。映画はB級が好物。心の名作はチャック・ノリスの『デルタ・フォース』!

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