プロレスを題材にした映画シリーズ:学生プロレスの茶番感と難病感動ドラマの融合『ガチ☆ボーイ』
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プロレス映画の中でも珍しい、恐らく「学生プロレス」を題材にした唯一の商業作品が『ガチ☆ボーイ』(2008)。
佐藤隆太主演の本作は、大学内で噂になるほどの天才ボーイ・五十嵐が、自転車事故の後遺症により「高次脳機能障害」を患うも、事故以前に観て感動した記憶が残っていた(事故以前の記憶だけは残っている)学生プロレス研究会「HWA」の門を叩き、人生の意味的な何かを見つけちゃう難病青春モノ。
記憶障害というと特定の時間しか記憶が保てない筋立ての『メメント』(2000)や『博士の愛した数式』(2005)がありますが、本作は「寝ると前日の記憶を全て失ってしまう」設定からしてコメディ寄りで、笑って泣けるスポ根系の味付け。
主題となる「学生プロレス」の方は、大学生によるエンターテイメント性・パロディ性を強調した"本格的プロレスごっこ"で、選手のギミックから実況、試合内容も含めてほぼコント(プロ同様の試合をやる組織もある模様)。実際、お笑い芸人に学プロ出身者が多いことでも知られます(「ハッスル」で本職選手と試合をしていたレイザーラモンHG・RGなど)。
本職の世界では「半端者」と忌み嫌われていた時代もありましたが、「WWE」などのエンタメ色の強いプロレスが国内でも浸透した影響からか、棚橋弘至や真壁刀義らの出身者が「新日本プロレス」でエース級選手として成功。エンタメ路線の団体「DDT」にも多くの出身者が在籍しています。
本作で再現されている「学生プロレス」は、かつて筆者が観た本物の学生プロレス大会の中継番組(確か日テレ)の記憶と比べても、良い意味での「茶番」と呼ぶに相応しい出来栄えです。
また、北海道が舞台なこともあり、同地を中心活動エリアのひとつにしている「みちのくプロレス(岩手が本拠地)」が全面協力。主人公が最後に闘う連合会長コンビの片割れを同団体エースのフジタ"Jr"ハヤトが演じたほか、数名のプロ選手が出演しています。
プロレスの「良いベタさ加減」が出ている本作ですが、物語の展開もまさにそんな感じ。
マリリン仮面としてデビュー戦を迎えた主人公は、段取りを忘れて本気(ガチンコ)で試合をしてしまったところ、逆に評判となり、スター選手不在で北海道大学プロレス連合入りも却下されていた「HWA」にとっては、主人公のおかげで連合入りが実現し、合同興行も行えるように。
しかし、本人には知らせない形で連勝街道を演じさせ、頃合い良くなったら連合の会長コンビがその連勝を止める、という黒い筋書きを強要されるHWA部長(ちなみに向井理)だった・・・とまあ、プロの現場でもありそうな「プロモーターと雇われ選手(団体)」の力関係が描かれているのは、ベタながら面白いところ。
最後も記憶障害のせいで決戦に大遅刻やらベタを押さえた流れでクライマックスとなりますが、個人的な感想をいえば、ミッキー・ロークの『レスラー』の決戦シーンよりドラマとして楽しめた気がしないでもありません。
主演の佐藤クンが持つ"元気押し売りマン"臭が苦手だとか、難病の扱いにシビアな目を持つ方でなければ、プロレスを題材にした作品の中では、気楽に観れる成長ドラマとしてオススメ出来る作品になっております。
(文/シングウヤスアキ)