アホしか居ない時代がWWEそのものにしか見えない『26世紀青年』
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知識層が子作りに積極的ではない一方で、DQNな層の無計画な子作りに歯止めが効かない状態のまま500年経ったら......という現代アメリカ社会を風刺した作品が『26世紀青年』(2006)。その末期的世界が何だかWWEみたいだったので、今回のお題としてご紹介します。
2005年、軍人ジョーと売春婦リタは、米軍の極秘冬眠実験の被験者として1年後の覚醒を予定して入眠。ところが責任者の不祥事により実験の存在が忘れ去られたまま時が過ぎ、ようやく目覚めたのが2505年。そこは知能指数の低い世帯が拡大し続けた末、世界的に低劣かつ極端な社会構造に変貌した"国民総アホ時代"だった!
で、色々あって犯罪者にされてしまうも、全てにおいて平均レベルのジョーは、結果的に2505年では世界イチの天才になったことで内務長官に抜擢。恩赦を得て、この時代に存在するらしい「タイムマシン」で元の時代に帰還すべく、"当たり前の発想"で食糧危機解決策を提案。しかし、特殊な社会情勢のせいで混乱が起き、大統領を始めとしたアホ故にせっかちな人々によって処刑ショー送りになっちゃうけど......みたいなお話。
映像作品などでのプロレスラーの扱いは、それこそ"おバカ担当"が相場ですが、本作では国を統べる大統領が元プロレスラー(兼AV男優)という設定で絶望的に救い難い状況を演出。入場曲に乗って議会に登場し、煽り口調の台詞を吐きながら演説を行えば、聴衆もヤジを飛ばすという、ヒールレスラーの入場&スピーチシーンそのものです。
実際、このシーンや終盤の処刑ショーのシーン(アホなアメリカ人が好きそうなモンスタートラックが大暴れ)など、本作中には、WWEの番組で観られるような観衆の反応、つまりポジティブではあるけれど、ある種の盲目的な倫理観に基づく群集心理(別名:アメリカ人は本当にアホだなぁ感)が散見されます。
ほかにも、2505年の主流ファッションスタイルであるテロンテロンの材質の変な柄のシャツは、まるでレスラーの衣裳みたいだし、ヒロインのリタが売春婦からまともな女性に変遷する流れも、アバズレ系でデビューしたのに、気付いたらしっとり美女に路線変更していたトリッシュ・ストラタス的だったりと、色々とプロレス事情と重なる本作。
非日常であるからこそ楽しめるWWEが日常になったらヤバイことになるというのが良く分かる作品でしたが、ブラックコメディ要素だけでなく、チープながらそれなりのアクションやCG、続編を期待させるエンディングなどツボは押さえた内容で、珍作と称するのには良い意味で抵抗がある佳作となっております(邦題はアレですけども)。
(文/シングウヤスアキ)