衝撃の塩レスラーと聞いて別の意味で期待してたら割りと普通で真顔になるような肩透かし珍作
『ジャックとジル』
- 『ジャックとジル [DVD]』
- ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
- 3,065円(税込)
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年間最低の映画を決める「ゴールデンラズベリー賞(ラジー賞)」史上初の全10部門制覇の偉業を達成した『ジャックとジル』(2011)。製作・共同脚本・主演を兼ねるアダム・サンドラーが双子の兄妹を一人二役でこなす、という時点でさもありなんな(ラジー賞は男優の女装に厳しい)、珍作界のゴウなんとかさん的オブ・ザ・イヤー作品をプロレス視点で観ていきます。
その内容は、CMプロデューサーとして成功し、幸せな家庭を築くジャックの元に、感謝祭(親族や友人を招いてターキー貪る北米の祝日)のため、双子の妹でトラブルメーカーのジルがやって来ることで巻き起こるドタバタ劇。
プロレスにも古くからリアル双子チームは存在し、ここ20年だとデスマッチも飛び技もこなす万能デブ兄弟のザ・ヘッドハンターズ、揃って2メートル越えのハリス兄弟、国内にはバラモン兄弟なんてのも。現在のWWEではサモア系のウーソズと姉妹ディーバのベラ・ツインズが活躍中で、TNAのブロッサム・ツインズという新人姉妹も話題になりつつあります。
プロレスの双子は1パッケージとして扱われ易いんですが、本作では、人生に成功した安定主義の兄ジャックと、男勝りの怪力にガサツ過ぎる性格(放屁&脱糞音をジャックに聞かせるなどなど)で婚期の遅れた妹ジルに色分けされています。
そこに来て細身とはいえないサンドラーによるオッサンじみたジルに、名優アル・パチーノ(本人役)が偏執的にベタ惚れしてしまうまさかの"ブス専"設定は、ショッパイ筋書き&珍配役に目がないラジー賞好みといえましょう(おかげでパチーノは最低助演男優賞を獲得)。
何だかセクシャル・チョコレート(黒人ジゴロギミック)時代のマーク・ヘンリーと当時77歳のメイ・ヤング(伝説的女子レスラー)との熱愛ネタを思い出します。
で、ジャックの会社はパチーノとCM契約しないと倒産危機とあって、家族だけで行くハズだったクルーズ旅行にジルも連れ出して、パチーノと引き合わせる算段を企てますが、ジル本人が断固拒否。となれば、ジャック自身がジルに扮して入れ替わって・・・という、ベッタベタの展開に。
この「入れ替わり」作戦、プロレスにおいても見分けがつき難い双子チームの伝統ネタであり、片方がピンチに陥ればレフェリーの隙をついてもう片方が入れ替わり、不正勝利を得たり不意打ちをしたりと要所で駆使されています。
ハッピーエンドな流れでパチーノの珍CMシーンがオチとなる本作ですが、某トマトサイトでは驚愕の3%で超腐敗判定と来て、トドメに第32回(2011年度)ラジー賞全10部門を制覇(ついでに同年公開のサンドラー主演作『ウソツキは結婚のはじまり』も2部門受賞)へ。
ただ、筆者的には全体としてはスベってはいるけど、名優パチーノの珍演技など悪くはないと思える内容。言ってみれば、ゴリ押しデビューしたけど言うほど凄くもなく、塩レスラー好きが狂気するほどじゃないけど、その肩透かし的ショッパさは嫌いになれないドリュー・マッキンタイア的な作品、というまったく伝わらない比喩で締めさせて頂きます。
(文/シングウヤスアキ)