プロレスってもろエクスプロイテーションだよね、的なことを『ディスコ・ゴッドファーザー』を観て思う
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国や人種によって文化や趣向があるように、映画の中には特定コミュニティに向けたジャンルもあります。中でも象徴的なのが、70年代に流行したブラックスプロイテーション。
ブラックスプロイテーション映画とは、エクスプロイテーション映画同様に流行りの話題や映画ネタに平然と乗っかって安易に興収を狙うと同時に、アフリカ系アメリカ人(黒人)の主人公たちが差別的な白人に勝つ構図を、ファンクなサウンドとファッションでデコレートした黒人向けの低予算映画、だそうです。
今回のお題『ディスコ・ゴッドファーザー』(1979)もそのムーヴメントのカリスマのひとりとされる、ルディ・レイ・ムーア主演作品。
とあるディスコのオーナーでDJの"ディスコ・ゴッドファーザー"タッカーが、愛する甥っ子が薬物中毒に冒されたことから、元警官としての正義感が疼いて不埒な麻薬組織壊滅に動き出す・・・という勧善懲悪ストーリーで、ファンキーなダンスと音楽やらカンフー(カラテ?)にオカルト要素まで詰め込んだ勢い任せの珍作です。
プロレスの場合、業界の方向性そのものがエクスプロイテーションといえ、出身国や人種は選手にとっての武器となり、プロレス黎明期の60年代当時からイタリア系のブルーノ・サンマルチノ、プエルトリコ系のペドロ・モラレスなどそれぞれの人種のヒーローが存在。サモア系のワイルド・サモアンズなんてのも人種をギミックにした代表例といえます。
ただ、実は保守的な米国内では、欧州系や有色人種は伝統的にヒールになることが多いのもお約束。WWEでも、かつて「ネーション・オブ・ドミネーション(NOD)」という黒人のみのユニットを登場したことがありますが、モチーフにした実在の組織が白人を敵視する"過激派"ということもあって完全なヒールユニットでした。
さて、本作のルディ師父はスタンダップコメディ出身ということで、エディ・マーフィーにも影響を与えたといわれるマシンガントークはさすがなんですが、一応得意らしいダンスはおケツや頭をひたすらプルプルさせるばかり。
売りっぽい格闘シーンも、味方となる脇役陣が見事な殺陣を演じているせいで、ルディ師父の"ブルース・リー"に憧れる中学生レベルのドヤ顔アクションは俄然シュールなベクトルへ!
そういえば、件のNODのメンバーにもカマ・ムスタファという格闘家ギミック(UFC等で活躍した「キモ」がモデル)の選手が居ましたが、コテコテのアメリカンスタイルの選手よりそれっぽい打撃が出来る程度というお粗末さ。
しかし、 若手時代のザ・ロック(ドウェイン・ジョンソン)がNODを乗っ取り、ユニットの方向性を変えたことに伴い、ポン引きギミック「ゴッドファーザー」に転身。「ホー(娼婦)」を引き連れ、場合によってはホーと引き換えに対戦相手から勝ち星を買ったり、色仕掛けさせたりなど、まさにブラックスプロイテーションで描かれるゲスい黒人の典型例で人気スターになっています。
ところで本作は「麻薬、ダメ、絶対」的なオチからして麻薬に関して警鐘を鳴らすテーマがあるようなんですが、薬物中毒症状の怖さを再現したと思われる幻覚の演出はオカルト風味で、サイケなファンクサウンドによるシャレオツ感も相まって怖さより前衛芸術を見ているような置いてけぼり感が際立っております。
(文/シングウヤスアキ)