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プロレス×映画

ジョバーの復讐劇を描いたような哲学的異色映画『気狂いピエロの決闘』

気狂いピエロの決闘 [DVD]
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 ピエロというと話芸や大道芸をこなす陽気な存在(※)ですが、そのピエロが常軌を逸した血みどろのバトルを繰り広げちゃうのが『気狂いピエロの決闘』(2010)。
 珍作臭香る本作を要約すると、サーカス団員同士の三角関係のもつれを、スペイン内戦などの史実に絡めたトンデモ脚本と、無駄にスタイリッシュな画作りと斜め上を行く演出で彩った異色作品です。

 時は1930年代のスペイン内戦下。ピエロ家業の家系に生まれた少年ハビエルは、反乱軍に抵抗した罪(ピエロ姿でマチェーテ無双!)で終戦後も強制収容所送りにされた父親の救出を試みるも敢え無く失敗。
 月日は過ぎ、気弱なピザデブに成長したハビエルは、父の生前の助言通り"泣き虫ピエロ"として、あるサーカス団の"おどけピエロ"セルヒオの相棒となるのだが...という流れ。

 作中"おどけピエロ"が"泣き虫ピエロ"をイジって笑わせるセオリーが言及されますが、プロレスの「売れ線ヒール選手がジョバー(やられ役)をボコってヒートを買う」構造もコレ。

 本作の売れ線ヒールたる"おどけピエロ"セルヒオは超オレ様体質で、恋人ナタリアにはDVも当たり前。一方、ジョバーなくせに正義感だけは強いハビエルはナタリアを救おうとしますが、天然ビッチなナタリアはそんなハビエルと火遊び開始。そしてついにデート現場を押さえたセルヒオがブチギレモードへ。ここからがヤバイのです。

 セルヒオのパンチでナタリアがドラゴン○ールよろしく吹っ飛び、止めに入ったハビエルをハンマーゴングの上に寝かせ、乱打の嵐でそのままゴーン! 病院送りになったハビエルも、「復讐」を誘う幻覚に従い、ケツ丸出しの手術衣姿でサーカス小屋に舞い戻り、ナタリアとズッポシ中のセルヒオの顔面をトランペットで滅多打ち。

 プロレスでジョバーが売れ線選手への逆襲に成功したとすれば、ギミックチェンジの予兆。本作のハビエルも警察に追われ、森の中に逃れるや全裸野人として開眼します。
一方の顔面ベロリンチョなセルヒオも獣医の雑な縫合手術により、顔面パッチワークマンに。プロレスならコミカルヒールから怪奇派へのバージョンアップです。

 アレコレあって再び幻覚を視たハビエルは「オラのギミック、野人とちゃう!」とばかりにピエロに回帰するんですが、このシーンがまた"マジキチ"。その後、愛しいナタリヤの元へと急ぐも、そこには顔面パッチワークマンの姿が。

 結局、ナタリアに選ばれなかった"泣き虫ピエロ"ハビエルが、ナタリアが選んだセルヒオと同じ"おどけピエロ"へと心理的に変異し、邦題通りのマジキチクライマックスとなる(スペイン内戦の戦死者を弔う)「戦没者の谷」の十字架モニュメントでのラストバトルに至るんですが、プロレスでもジョバーが売れ線選手に復讐しても、急な展開にファンの理解が追いつかないこともあるように、(なにこれワロタ的)悲しい結末へ。

 バカ映画の範疇に入る内容ながら、人々を楽しませるためのセオリーの中で葛藤する当事者たち(ラスト間際のバイクスタント担当団員の無駄な自爆は大笑いしつつもジョバー的悲哀を感じちゃう!)、というプロレス業界にも通じたテーマを持つ本作は、「珍作」と一言で片付けられない不思議な魅力を持った作品となっております。

(文/シングウヤスアキ)

※ちなみにプロレスのピエロというと、WWF(現WWE)で活躍した「ドインク・ザ・クラウン」が有名。コミカルなヒールとしてデビューし、ミゼットの相棒「ドインク」登場以降はベビーフェイスとしても活躍しました。本作に倣うと"おどけピエロ"系。

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シングウヤスアキ

会長本人が試合までしちゃうという、本気でバカをやるWWEに魅せられて早十数年。現在「J SPORTS WWE NAVI」ブログ記事を担当中。映画はB級が好物。心の名作はチャック・ノリスの『デルタ・フォース』!

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