締めつけユルユルなのに相手が吐血しちゃうアンダーテイカーの決め技「ヘルズゲート」みたいな珍作『エアベンダー』
- 『エアベンダー スペシャル・コレクターズ・エディション [Blu-ray]』
- ノア・リンガー,M.ナイト・シャマラン,ノア・リンガー,デヴ・パテル,ニコラ・ペルツ,ジャクソン・ラスボーン,ショーン・トーブ,アーシフ・マンドヴィ,クリフ・カーティス,セイチェル・ガブリエル,M.ナイト・シャマラン
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アニメ・漫画・ゲームを実写映画化すると「どうしてこうなった」案件に成り果てるのはよくある話。そこで今回のお題は、2010年最悪の作品とも揶揄される珍作『エアベンダー』(2010)。
M・ナイト・シャマランが手掛けた本作は、原作となったアニメ『アバター 伝説の少年アン』の三部作の内、第一部を映像化したもので、戦下にある4つの国とそれぞれが得意とするエレメント能力の使い手「ベンダー」と、全てのエレメントが使える全能のベンダー「アバター」を中心に巻き起こる争いを描いた物語。
水の国のベンダーの少女カタラが、かつてアバターに選ばれながら修行途中で逃げ出した少年アンが閉じ込められた氷塊を見つけたことで幕を開けます。
超能力バトルモノという少年漫画風の題材を、『シックス・センス』『サイン』といった淡々とした心理的恐怖やミスリードによるストーリーテリングを得意とするシャマラン監督がどう料理したのかと思えば、主要ターゲットとなるお子ちゃま層を意識してか、かなりストレートな表現になっています。
ズバリ言ってしまうとシャマラン監督必殺の「どんでん返し」が無いのです。
これをプロレスに喩えると、WWEが視聴レーティングを下げて持ち味だった要素を封印したことが重なって来ます。
90年代から2000年代前半にかけ、お下劣で破天荒な方針を打ち出した「Attitude」時代を迎え、世界規模の大ブームとなったWWEですが、青少年向けコンテンツの厳正化の流れもあって、2009年に各番組の視聴レーティングを引き下げ、子供・ファミリー層を意識した内容に移行。
結果、性的な隠語を含む技名や決め台詞の変更・自粛。ディーバ(女性選手)が下着姿で闘うランジェリー・マッチや、プロレスにお決まりの流血を伴う攻防も(本当のイレギュラー出血以外は)封印。
金網の天井から投げられたミック・フォーリーがリングにそのまま落ちるといったような、体を張ったハードなバンプ(受け身)も、職場や学校での真似を助長するせいもあり、語り草になるようなレベルのものは見られなくなりました(選手の安全性を考えると仕方ないけど)。
さて、まんじりとした展開に「まだこれしか経ってねぇのかよ・・・」と何度も時計を確認しては唖然とさせられる本作ですが、そこに加えて観る者の気力をゴッソリと奪うのがアクションパート。
静的な画作りを得意とするシャマラン監督なので案の定ですが、大作御用達スタジオ「ILM」が手掛ける見事なCGと反比例する、演者のキレのない殺陣と素人然とした演舞により、気力は削がれるけど、腹筋だけは鍛えられるという新たな笑いのエクスペリエンス。
特にアバター・アン役のノア・リンガー君のショボさが突出しており、「オレ頑張ってる、超頑張ってる」みたいな表情が妙にツボに来るのです。
この辺りは総合格闘技好きのアンダーテイカーが「三角絞め」を採り入れて「ヘルズゲート」としてドヤ顔で使用してるけど、締めつけ超ユルユルなのに相手が吐血しちゃう謎の破壊力に、観てるこっちの腹筋が崩壊するような珍現象に似ています。
原作が三部作ということで当然、続編を意識したオチになっている本作ですが、2010年度ラジー賞で五部門を制覇し、某トマトサイトでは前代未聞の6%の"超腐ってる"判定を食らったせいか、立ち消え状態に。ノア君の腹立たしい顔が観たいのに!
(文/シングウヤスアキ)