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プロレス×映画

『キャノンボール』、それは"ぬるま湯バトルロイヤル"

キャノンボール デジタル・リマスター版 [DVD]
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 今回のお題は『キャノンボール』(1981)。オッサン世代にはジャッキー・チェンとハリウッド名優の競演が話題になった作品としても知られますが、公開当時、あるいは大人になって観直してしまった良識ある映画ファンからすると、キャストだけのポンコツ映画という評価の様子。しかし、ポンコツ映画好きとしては、日本チームといいながらジャッキーとマイケル・ホイは広東語全開とか、81年時点ですでにヅラっぽいバート・レイノルズとか、色男ロジャー・ムーアがまさかのヨゴレ役とか、見どころがほぼないカーシーンとか、仕掛けが急過ぎてちょいちょい笑いどころを見失うコメディ要素など、ツッコミ甲斐のある愛すべき作品でした。

 映画の内容は、アメリカ東海岸から西海岸までの大陸横断非合法公道レース「キャノンボール」に参加する個性派揃いの面々による脚の引っ張り合いと、それを取り締まる警察や安全推進委員会の攻防をコミカルに描いたもの。プロレスで喩えれば、多人数が一度に闘うバトルロイヤル形式が当てはまりますが、このオールスター感を踏まえるなら、WWEの代名詞のひとつである「ロイヤルランブル・マッチ」(※1)が浮かんで来ます。

 もっとも本作にはバトルロイヤルのようにライバルたちを失格させていくようなサバイバル性は無く(※2)、偽神父コンビ(サニー・デイビスJr.とディーン・マーティン)が、主人公J.J.(バート・レイノルズ)の偽救急隊コンビの救急車をパンクさせたり、その仕返しとして、J.J.がパトロール警官に「おまわりさんコイツです」とばかり、"神父コンビは露出狂の変態"という嘘情報を吹き込んで足止めさせたりする程度。これはもう「ぬるま湯のようなバトルロイヤル」と言っても差し支えないでしょう。

 バトルロイヤルといえば、ベビーとヒールの意外な共闘も目玉要素ですが、本作では道路工事で足止めされるキャノンボーラーたちに、(ピーター・フォンダ率いる)イージー・ライダー軍団が喧嘩をふっかける場面において、J.J.相棒ビクターのペルソナであるキャプテン・ケイオスが"何処"からか颯爽と現れる形で乱闘が始まり、主要メンバーが共闘する本作のハイライトシーンを迎えます。

 さらにバトルロイヤルの場合、この一時共闘状態から不意打ち的にライバルを減らす裏切り行為までが一連のお約束。本作でも、偽神父コンビの抜け駆けを機に続々とキャノンボーラーが再出発していく中、日本チームはジャッキーが喧嘩に夢中になり、出遅れるハメに、という流れが。

さらなるアクシデントで自分の脚で走ってゴールに向かう展開となり、集団を抜けだしたキャプテン・ケイオスと美女コンビの片割れがラストスパートに入るも・・・といった感じで最後の最後もベッタベタな展開で終幕(そして"これが本篇"とも皮肉られるエンドクレジットのNG集へ)。

 とまあ、ちょいちょい観覧者が置いてきぼりになる本作なので、今は亡き広川太一郎さんらによる軽妙な吹替版視聴を強くオススメ。字幕で観ると前半で寝る可能性大です。
 また、84年公開の正式続編は、同年のラジー賞7部門を制覇する怪作となっており、いずれお題として採り上げねばならない宿命を感じる次第であります。

(文/シングウヤスアキ)

※1 通常のバトルロイヤル形式が全員揃った状態で始まるのに対して、「ロイヤルランブル」形式は、1番手と2番手の1対1の状態で試合開始となり、以後1分半の間隔で3番手以降の選手が順次参戦するため、最後に参加する選手が有利となる。また、事前に参戦する選手が誰か判らないため、サプライズゲストなどを含め、オールスターに近い陣容で行われる。優勝者はその年の総決算イベントのメイン戦出場権と王座挑戦権を確保出来るという特典も特徴。

※2 モチーフになった本物のキャノンボールでは、替玉車両による時間短縮に対してだけ失格がくだされることがあったそうです。

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シングウヤスアキ

会長本人が試合までしちゃうという、本気でバカをやるWWEに魅せられて早十数年。現在「J SPORTS WWE NAVI」ブログ記事を担当中。映画はB級が好物。心の名作はチャック・ノリスの『デルタ・フォース』!

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