何故か面白さを重視するマクマホン会長みたいな悪のボスが嫌いになれない『デッドフォール』
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今回のお題『デッドフォール』(1989)は、1990年のゴールデン・ラズベリー賞(年間最低の映画を決める裏アカデミー賞)3部門にノミネートされたことでも知られる、80年代にありがちなポンコツ映画。
シルヴェスター・スタローン主演作というだけですでに臭ってくるポンコツ臭ですが、カート・ラッセルがハッチャけた相棒役として"微妙"なスパイスを与えています。
破天荒な麻薬捜査で名を馳せるタンゴ(スタローン)とキャッシュ(ラッセル)だが、彼らに煮え湯を飲まされていた麻薬組織のボス・ペレの策略によって囮捜査官殺しの悪徳警官に仕立て上げられ投獄の身に。しかし、アレやコレやで脱獄。冤罪の濡れ衣を晴らすべくペレが潜む隠れ家に突入する・・・というのが本作のあらすじ。
『デッドフォール』がポンコツとされる主たる要因は、件のラジー賞でノミネートされた主演のスタローン、助演女優のラッセル(女装シーンがあったため)、そしてトンデモ脚本のようですが、それを踏まえても一番おかしいのは麻薬組織の大ボスであるMr.ペレ。しかし、プロレス的な価値観で見てみるとこのペレさんこそが本作のキモなのだと思うに至ります。
ペレさんはまず"ゲーム至上主義"です。部下から再三に渡り「殺しましょう」と進言されても「殺しは感心せん」「ゲームを始めよう」と持論を語り、2人に脱獄されても「これから面白くなるんだ」と聞く耳持たず! WWEのマクマホン会長じゃあるまいし、何故面白さを求めるのか。「殺しちゃうと警察と全面戦争になってしまう」という度量の狭い発言もまた会長的。
次に"現場主義"である。電話で指示だけすれば済むものを、タンゴたちが収監された刑務所に自ら潜り込んでウキウキ気分で手下に拷問を指示して鑑賞するペレさん。わざわざ会場に出て来て、手駒のヒールレスラーたちに善玉イビリを嬉々として指示するマクマホン会長そのものです。
そして"無邪気"。タンゴたちが重装備SUVに乗って隠れ家の採石場に突撃してくるクライマックスシーンで、当のペレさんは、タンゴたちが手下の攻撃に晒されるのを隠れ家のモニタで観戦しながら「やれぇ!」と大興奮。もはやプロレス観戦でエキサイトしてるお爺ちゃん状態で、包囲網を突破されてしまったあとの悲しい溜息がちょっとカワイイのです。
自分から仕掛けておいて「このゲームは高く付き過ぎた」と愚痴って最期を迎える辺りも含めて、何だか嫌いになれないペレさん。"悪の絶対権力者"時代のマクマホン会長もブーイングを浴びながらも番組に無くてはならない愛された存在だったことを思い返す筆者でした。
尚、当初のキャッシュ役俳優の降板が影響して、脚本(手直しが間に合わず?)が未完成のまま撮影がスタートしていたとか、さらにスタローンが主演パワーで撮影監督をクビにするわ、監督までも撮影終盤に交代になった挙句、出来上がったフィルムを観てブチギレた配給元のワーナーが、名うての編集マンを"医師"として招集した(「治療」が必要なほど酷かった?)というネガティブな裏話が光る本作。ついでに劇伴が『ビバリーヒルズ・コップ』に酷似しているんですが、それもその筈、実は作曲が同じ人。ひとつ物知りになりましたね。
(文/シングウヤスアキ)