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プロレス×映画

『SAW』を観て、存在自体が"ゲームオーバー"なアレを思い出す

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 出口が封じられた地下室。壁のパイプと足を鎖で繋がれた男が2人。中央には、右手にテープレコーダー、左手に拳銃を握った後頭部血まみれの男の死体。ここから脱出するには相手を殺すか自分が犠牲を払うかのゲームに勝たねばならない...。
 てな感じの限られた状況設定と極限状態の描写を主としたカテゴリ「ソリッド・シチュエーション」の火付け役となった『SAW』のシリーズ第一作(2004年公開)。

 記憶の断片が蘇る中で緊迫状況に突入する、地下室に閉じ込められた2人の動きと、この連続殺人ゲームの犯人を追う刑事と犯人「ジグソウ」と思わしき人物の外界での動きが次第にひとつに繋がり、衝撃の"ゲームオーバー"に向け盛り上がるクライマックスシーンを観て思いました。WWEの「パンジャーブ・プリズン・マッチ」に似ている、と。


「パンジャーブ・プリズン・マッチ」とは、「脱出」に焦点を当てた金網戦の派生型(ちなみに原典の金網戦はリングの四方を金網で囲い込むルール)。二層構造の檻からの脱出のみが勝利条件となる、WWE史上でも過去2度しか行われていないレアな試合形式です。

 さて、ソリッド・シチュエーションの王者たる『SAW』に対し、「パンジャーブ・プリズン・マッチ」とは如何ほどにソリッドなのか......敢えていおう! ノーソリッドであると!

 何せ檻は竹製。見た目は完全に中国の工事現場状態であり、「あのリング、耐久性に問題がありそう」みたいな感覚になってくるというもの。
 ルール的には第1層内で相手を動けなくして、その隙にレフェリーに脱出出口を開けてもらい、開口制限時間(1分)以内に出る(この辺り、映画最終盤で地下室内の男がジグソウに対して"解放"を要求するシーンに重なります)。さらに続く第2層を乗り越えて完全脱出した方が勝ち、というものですが、2006年に初めて行われたアンダーテイカー vs. ビッグ・ショーのケースでは、レフェリーにイチイチ合図して第1層出口を開けてもらうというルールが祟って恐ろしくテンポが悪く、第2層脱出攻防戦も「竹なんだし壊した方が早いんじゃないの?」という観ている側のツッコミが現実になるという、ソリッドさの欠片もない内容。
 また、"パンジャーブ"という名称通りインド系スーパースター用という縛りがあるうえ(2006年時はインド系のカリが病欠でビッグ・ショーが代打出場)、竹という素材のせいで使い回しも難しかったのか、翌2007年の2度目と合わせて計2回行われただけで封印へ。

 もはや存在自体が"ゲームオーバー"な「パンジャーブ・プリズン・マッチ」。通算7作まで続く『SAW』シリーズのようには行かなかったのであります。

(文/シングウヤスアキ)

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シングウヤスアキ

会長本人が試合までしちゃうという、本気でバカをやるWWEに魅せられて早十数年。現在「J SPORTS WWE NAVI」ブログ記事を担当中。映画はB級が好物。心の名作はチャック・ノリスの『デルタ・フォース』!

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