連載
怪獣酋長・天野ミチヒロの「幻の映画を観た!怪獣怪人大集合」

第29回 『九十九本目の生娘』

 昨年の11月、日本映画界は高倉健、菅原文太と、不世出のカリスマ俳優を立て続けに失った。「トラック野郎シリーズ」ファンの私は、特に文太アニイの訃報には肩を落とした。そこで今回は、様々なメディアで展開された追悼特集で恐らく語られることのなかったであろう、出演作品の中で最も変テコでカルトな内容のデビュー3作目、タイトルからして猟奇漂う『九十九本目の生娘』を紹介しよう。監督は文太アニイのデビュー作『海女の化け物屋敷』(1959年)と同じ曲谷守平。脚本はのちに『マジンガーZ』や「戦隊シリーズ」など多くの児童番組で活躍する名ライター・高久進のデビュー作

 舞台は、昭和30年代の岩手県北上川上流にある山村。オープニング音楽が、『ゴジラ』で有名な伊福部昭の作曲した『大怪獣バラン』(1958年)の音楽と曲調そっくり。『バラン』の舞台も北上川上流だ......と思ったら、作曲した松村禎三は伊福部昭の弟子だった。

 冒頭、「あっちだ!」「向こうだ!」と棒切れを構えた2人の若い男。藪の中をガサガサと動き回る「何か」。イノシシ? サル? 挟み撃ちにしようとする2人が「この野郎! 逃がさんぞ!」と棒でボコボコ殴って捕えたソレは、腰の曲がった小汚いお歯黒ババアだった(呼称=オババ)。2人に取り押さえられたオババは奇声を上げながら男の腕に噛みつき必死に抵抗するが、山に生えていたツタで縛り上げられ駐在所へと連行される。見た目には老人虐待だが、オババは唸り声を上げながら懸命に足を踏ん張って、2人の男が全力で抑えないと逃げられてしまうほどの怪力を発揮しているバケモノだ。扮するは、当時化け猫役で有名だった五月藤江。町のバーでナンパしたホステスがオババに拉致され、男たちは山を捜索。ようやく野草を食っているオババを見つけて捕獲したのだ。

 だがオババは2人が水を飲んでいる隙に逃げてしまい、村の警察署に駆け込む男たち。ここで登場するのが、我らが文太アニイ。ヤクザルックやダボシャツ姿が目に焼き付いているため警官の制服姿が似合わないが(笑)、二十代半ばの文太アニイが瑞々しい。

 さて、その年は村で10年に1度の「火づくりの祭」が行われる年。祭の夜、山奥に隠れ住む舞草(もうぐさ)族による名刀「舞草太郎国永」の秘儀が行われる。境内には浚われた2人の女が木から吊るされている。長は祀られていた神刀を鞘から抜き、狂気の形相で順に女を突いていく。ボタボタと足元に滴り落ちる血液。長は続けて無垢の鉄で刀鍛冶を始め、でき上がった刀を、女の血を溜めた竹筒の中に「ジュ~」と入れる。代々舞草族は10年おきに1本ずつ、計99本の刀を作って処女の生き血に浸すことで、先祖の霊が鎮まり一族は不滅に栄えるという伝承を守ってきた。今年がその99本目に当たる年だったのだ。

だが、血の中から抜いた刀を確認した長は愕然とする。「くう~......失敗した。女の血が穢れていた」。原理はよくわからないが(笑)、そりゃあんた、オババが浚ってきたのは、見ず知らずの男にナンパされ山まで付いてきちゃうバーのホステス。しかも1人は当時のヴァンプ女優・三原葉子。どう見ても処女には見えないぞ。

非処女を浚って長に怒られたオババは、村へ下りて警察署長の娘を拉致する。恋人でもある署長令嬢の一大事に、文太アニイは隊を率いて山狩りを決行。無線で連絡を取り合う警察隊に対し、毛皮をまとった舞草族の男どもは間隔を置いて樹上に見張りを置き「ホー、ホー」とフクロウの声色で仲間に状況を伝達するのだ。

やがて両軍は激突! 斜面の上から岩石を転がし弓矢を射てくる舞草族。署長はライフルで威嚇射撃を命じるが、射手が下手クソで即1人に命中(笑)。それでも怯まない舞草族の勇者は弓矢で警官2名を射貫く。ここで終始冷静だった文太アニイがブチ切れ、「構わん、撃て!」と署長の威嚇指令を勝手に解除し殺しまくる。一族の勇者たちも、文明利器の前には成す術もなく完敗。ラストは、内紛でオババを殺した長が、刀を手に令嬢へと迫る。が、間一髪のところで文太アニイに腕を撃たれ、観念した長は99本目になるはずだった刀で首を斬って自決する。戦いが終わり、警察によってその場に土葬される長とオババ。990年に及ぶ因習が、ついに終止符を打たれた瞬間だった。

 この作品はかつてビデオ化されていたが、現在はソフト未発売。皆さんにも観て欲しい作品だけに残念だ。それにしても主演の文太アニイはハンサムだが、まだブレイク前ゆえ没個性で、完全にオババに食われていた(笑)。「ダイヤの原石」と評しておこう。菅原文太さんのご冥福を心からお祈りいたします。

『九十九本目の生娘』
1959年公開・83分
製作・配給/新東宝

監督/曲谷守平
脚本/高久進、藤島二郎
主演/菅原文太、三原葉子、沼田曜一、五月藤江ほか

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天野ミチヒロ

1960年東京出身。UMA(未確認生物)研究家。キングギドラやガラモンなどをこよなく愛す昭和怪獣マニア。趣味は、怪獣フィギュアと絶滅映像作品の収集。総合格闘技道場「ファイトネス」所属。著書に『放送禁止映像大全』(文春文庫)、『未確認生物学!』(メディアファクトリー)、『本当にいる世界の未知生物(UMA)案内』(笠倉出版)など。
世界の不思議やびっくりニュースを配信するWEBサイト『TOCANA(トカナ)』で封印映画コラムを連載中!

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